結論からいうと、憲法9条は、私人相互間の関係や、国と私人との私法上の行為に直接適用されません。百里基地事件では、国が自衛隊基地の建設を目的として私人から土地を購入した契約について、憲法9条との関係が問題になりました。最高裁は、憲法9条だけを理由に、この土地売買契約を無効にすることはできないと判断しています。
憲法9条は私人間に直接適用されない
私人間効力とは
私人間効力とは、憲法の規定が、国と個人との関係だけでなく、私人同士や、国と私人との私法上の関係にも及ぶかという問題です。
憲法の規定を契約や行為にそのまま適用する考え方を直接適用といいます。これに対し、民法90条の公序良俗などを通じて、憲法の趣旨を私法上の判断に反映させる考え方が間接適用です。
百里基地事件の最高裁判決によれば、憲法9条は、私法上の契約やその他の行為の効力を直接決める規定ではありません。そのため、契約当事者の一方が国であっても、契約が憲法9条に反するというだけで、当然に無効となるわけではありません。
百里基地事件とは
事件の概要
国は、自衛隊の基地を建設するため、私人が所有する土地を購入しました。この土地売買契約を含む土地取得行為について、基地建設が憲法9条に違反するなら、契約も無効ではないかが争われました。
ここで中心となったのは、自衛隊や基地建設そのものの適法性を直接判断することではなく、基地建設を目的とする土地売買契約の私法上の効力です。
最高裁の判断
最高裁は、憲法9条が定める国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などは、国家の統治活動に関する公法上の規範であり、私法上の行為を直接規律するものではないとしました。
したがって、基地建設という目的や動機が憲法9条の趣旨に適合するかを直接判断して、土地売買契約を無効にすることはできません。百里基地事件では、契約を公序良俗違反として無効にすることは否定されました。
憲法9条が私法上の判断に影響する場合
もっとも、憲法9条が私法上まったく意味を持たないわけではありません。憲法9条は、下位の法律を解釈・適用する際の指導原理となり得ます。
たとえば契約の効力は、私的自治、契約上の信義則、取引の安全などの私法上のルールを踏まえて判断されます。その際、憲法9条の趣旨が民法90条の公序良俗の内容に影響することはあります。
ただし、憲法9条に関係する目的の契約が、常に公序良俗違反となるわけではありません。社会一般の観念からみて、社会的に許容されない反社会的な行為だという認識が確立しているかが重要です。
百里基地事件では、契約が締結された当時、自衛隊のために国と私人が売買契約を結ぶことが、社会的に許容されない反社会的行為だと一般に確立していたとはいえませんでした。そのため、契約は無効とされませんでした。
まとめ
- 憲法9条は、私人相互間の関係や、国と私人との私法上の行為に直接適用されない。
- 国と私人との土地売買契約も、憲法9条に反するというだけでは無効にならない。
- ただし、憲法9条の趣旨が、民法90条などを通じて間接的に考慮される可能性はある。
- 百里基地事件では、契約が社会的に許容されない反社会的行為とはいえないとして、契約の無効が否定された。
