行政法における権利濫用の禁止とは?行政権の濫用に関する判例を解説

行政の活動は、法律による行政の原理により制約を受けます。しかし、法律上の権限があるからといって、その権限をどのような目的で使ってもよいわけではありません。制度本来の目的を離れ、別の目的を実現するために権限を行使することは、行政権の濫用として違法となる場合があります。

行政法における権利濫用の禁止とは

民法1条3項は、「権利の濫用は、これを許さない」と定めています。この考え方は、私人だけでなく、国や地方公共団体が権利を行使する場面にも及びます。

行政機関に法律上の権限が認められていても、その行使が法律や制度の本来の目的から外れていれば、適法とはいえません。特に、表面的には制度に沿った処分であっても、実際には特定の相手に不利益を与えることを主な目的としていた場合には、行政権の濫用が問題になります。

判断の際には、次の点が重要です。

  • 処分や権限行使が、法律や制度の本来の目的に沿っているか
  • 本来の目的ではなく、別の目的を達成するための手段になっていないか
  • 特定の相手に不利益を与えることが主な動機・目的になっていないか

また、警察官職務執行法1条2項も、同法に基づく手段は目的達成に必要な最小限度で用いるべきであり、濫用してはならないと定めています。このように、行政には権限の有無だけでなく、目的との関係や必要性も求められます。

行政権の濫用が問題となった判例

最判昭和53年6月16日

当時の風俗営業法では、児童福祉施設のおおむね200メートル以内で個室付浴場を営業することが規制されていました。

この規制を利用して個室付浴場の開業を阻止するため、児童遊園の設置認可申請が行われ、行政庁がこれを認可しました。そこで、開業を予定していた会社が、認可の違法性を争いました。

最高裁は、児童遊園は、児童に健全な遊びを与え、健康を増進し、情操を豊かにすることを目的とする施設であるとしました。したがって、その設置認可も児童福祉という本来の目的に沿って行われなければなりません。

本件では、児童遊園の設置認可が、個室付浴場の開業阻止を主な動機・目的としていました。そのため、最高裁は、行政権の濫用に相当する違法性があり、個室付浴場の営業を規制する効力はないと判断しました。

まとめ

行政法における権利濫用の禁止とは、国や地方公共団体が、法律上の権限を本来の目的から外れて行使することを認めない原則です。行政機関に権限があっても、別の目的を実現するために利用すれば、行政権の濫用として違法となることがあります。

昭和53年判決は、処分の形式だけでなく、処分に至った主な動機や目的を重視した点に特徴があります。