契約を取り消すと、その契約は原則として契約時にさかのぼって無効になります。そのため、当事者は受け取った代金や目的物を返還する義務を負います。
もっとも、目的物がすでに第三者へ譲渡されている場合、取消しを第三者に主張できるかは、取消原因と第三者が現れた時期によって変わります。不動産では、第三者の登記の有無も問題になります。
契約を取り消すと、原則として契約時にさかのぼって無効になる
取消しの効果と第三者への返還請求
取消しがされると、契約は成立当初にさかのぼって無効となります。たとえば売買契約であれば、売主は代金を返し、買主は目的物を返還するという原状回復を行います。
しかし、買主が目的物を第三者へ転売していた場合、売買契約を取り消しただけで、必ず第三者から返還を受けられるとは限りません。まず、第三者への譲渡が取消しの前か後かを確認する必要があります。
取消し前の第三者には、取消原因によって対抗できるかが変わる
制限行為能力・強迫による取消しの場合
制限行為能力を理由とする取消しや、強迫を理由とする取消しは、第三者の善意・悪意や過失の有無を問わず、第三者に対抗できます。
たとえば、強迫を受けて土地を売却した後、買主がその土地を別の人へ転売した場合、転得者が事情を知らず、登記を備えていても、売主は取消しを主張できます。したがって、土地の返還を請求できます。
錯誤・詐欺による取消しの場合
錯誤または詐欺による取消しは、善意・無過失の第三者には対抗できません。この第三者は、不動産の登記を備えていなくても保護されます。
一方、第三者が悪意であった場合や、事情を知らなかったことに過失がある場合は、取消しを対抗できます。なお、善意・無過失の第三者がいても、契約そのものを取り消せなくなるわけではありません。目的物を返還してもらえないときは、転売した相手方への損害賠償請求などが問題になります。
取消し前の第三者と登記の関係
取消し前に現れた第三者との関係では、登記の有無だけで結論は決まりません。制限行為能力・強迫では、登記がある第三者にも取消しを対抗できます。錯誤・詐欺では、善意・無過失の第三者は登記がなくても保護されます。
取消し後の第三者には、取消原因にかかわらず登記が必要になる
取消し後に第三者へ譲渡された場合
取消しの後に、元の買主が目的物を第三者へ譲渡した場合は、取消し前の第三者とは扱いが異なります。取消しをした者と、その後に譲り受けた第三者との間では、二重譲渡と同視できる関係が生じるためです。
この場合、取消しをした者が第三者に所有権を主張するには、元の買主からの回復登記など、登記を備える必要があります。取消しをした者と第三者のうち、先に登記を備えた側が優先されます。
取消原因による違いはあるか
取消し後の第三者との関係では、制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫のいずれを理由とする取消しでも、登記が必要です。取消し前の第三者には登記なしで対抗できる場合がある制限行為能力や強迫でも、取消し後の第三者には登記なしで対抗できません。
取消しと第三者・登記の関係を一覧で確認
| 取消原因 | 取消し前の第三者への対抗 | 第三者の登記 |
|---|---|---|
| 制限行為能力 | 善意・悪意、過失の有無を問わず対抗できる | 登記があっても対抗できる |
| 強迫 | 善意・悪意、過失の有無を問わず対抗できる | 登記があっても対抗できる |
| 錯誤 | 善意・無過失の第三者には対抗できない | 善意・無過失の第三者に登記は不要 |
| 詐欺 | 善意・無過失の第三者には対抗できない | 善意・無過失の第三者に登記は不要 |
ただし、取消し後に現れた第三者との関係では、取消原因にかかわらず、取消しをした者が第三者に対抗するために登記を備える必要があります。
