行政計画の変更で行政に損害賠償責任が生じる場合とは?信頼保護の判例を解説

行政計画とは、一定の公の目的を達成するため、将来の目標やその実現手段を総合的に示すものです。もっとも、社会情勢の変化などを理由に、行政計画や施策が変更・廃止されることはあります。

そのため、行政計画が変更されたというだけで、直ちに行政の損害賠償責任が認められるわけではありません。ただし、行政の個別的・具体的な勧告や勧誘を信頼して私人が資金や労力を投入していた場合には、形成された信頼を不当に壊したとして、不法行為責任が生じることがあります。

行政計画は原則として変更できる

地方公共団体は、いったん決定した施策に原則として拘束されません。地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行う住民自治の原則のもとでも、社会情勢の変化などに応じて施策が変更されることは当然に予定されています。

しかし、単に計画を定めただけでなく、特定の者に対して計画に沿った活動をするよう個別的・具体的に促し、その者が計画の継続を前提に行動していた場合は別です。この場合は、計画を変更できるかではなく、変更によって形成された信頼を不当に破壊していないかが問題になります。

行政計画の変更で損害賠償責任が生じる要件

  1. 個別的・具体的な勧告や勧誘があること
    行政計画を一般に定めただけでは足りず、特定の者に対して計画に適合する活動を促していたことが必要です。
  2. 計画の継続を前提に資金や労力を投入したこと
    相当長期にわたる施策の継続を前提として初めて、投入した資金や労力に相応する効果が生じる性質の活動であることが重視されます。
  3. 施策変更によって積極的な損害が生じたこと
    勧告や勧誘に動機づけられて活動またはその準備活動に入った者が、施策変更によって活動を妨げられ、社会観念上看過できない程度の積極的損害を被ったことが必要です。
  4. 補償などの代償措置がないこと
    行政が損害を補償するなどの代償的措置を講じていないことが要件となります。
  5. 変更にやむを得ない客観的事情がないこと
    補償などの代償的措置を講じず、かつ、施策変更がやむを得ない客観的事情によるものでもない場合、信頼関係を不当に破壊したとして違法性を帯びます。

なお、行政と私人との間に、施策の維持を内容とする契約が締結されていなくても、個別的・具体的な勧告や勧誘によって密接な交渉関係に至っていた場合には、信頼が法的に保護されることがあります。

信頼保護を認めた判例|最判昭和56年1月27日

事案の概要

地方公共団体が、私人に対して工場建設への全面的な協力を明言し、工業用地として村有地を譲渡する旨の議決もしました。私人はこれを信頼し、工場予定地の耕作者に補償料などを支払い、敷地の整地まで行いました。

ところが村長が交代し、新村長が工場誘致に反対したため、工場建設に係る建築確認が認められませんでした。私人は建設を断念し、地方公共団体に損害賠償を請求しました。

最高裁の判断

最高裁は、地方公共団体が将来にわたって継続する施策を決めても、社会情勢の変化などによって変更すること自体は原則として可能としました。

一方で、個別的・具体的な勧告や勧誘を受けた者が、施策の継続を前提に資金や労力を投入し、施策変更によって活動を妨げられて社会観念上看過できない程度の積極的損害を受けた場合には、行政が補償などの代償的措置を取らず、かつ変更にやむを得ない客観的事情もないとき、信頼関係を不当に破壊したものとして不法行為責任が生じると判断しました。

したがって、行政計画の変更で損害賠償責任が生じるかは、行政の具体的な働きかけ、私人の投入した資金・労力、損害の程度、代償措置の有無、変更がやむを得ない客観的事情によるものかを踏まえて判断されます。

信頼保護が認められない場合もある

信頼保護を主張する側に帰責事由がある場合には、信義則に反するとはいえないと判断されることがあります。最判平成19年12月13日は、失職事由の発生を隠して約26年11か月にわたり勤務を続け、給与の支給を受け続けていた者について、国が失職した旨を主張することは信義則に反し、権利の濫用に当たるとはいえないとしました。