行政が長年にわたって同じ扱いを続けてきたとしても、それだけで、後から扱いを変更したり、法律上の地位を否定したりすることが直ちに違法になるわけではありません。もっとも、行政の具体的な働きかけを信頼して行動した人に、行政が一方的に不利益を与える場合には、信頼保護や信義則違反が問題になります。
信頼保護の原則と信義則違反の関係
信頼保護の原則とは
信頼保護の原則とは、行政の施策や対応を前提に、個人が資金や労力を投入して行動した場合、その信頼を一定の条件のもとで法的に守る考え方です。
特に、行政が特定の人に対して具体的な勧告・勧誘をし、その施策が続くことを前提に相手方が活動を始めたケースで問題になります。後に施策が変更され、その人に社会通念上無視できない損害が生じたにもかかわらず、補償などの代償的措置がなく、変更を避けられない客観的事情もない場合には、行政の対応が違法となることがあります。
信義則違反とのつながり
信頼保護の根底には、当事者間に形成された信頼関係を不当に壊してはならないという信義則・信義衡平の考え方があります。ただし、行政が長期間同じ扱いをしていたという事実だけで、信頼が当然に保護されるわけではありません。
信頼を主張する側に帰責事由がある場合には、信義則に反するとはいえないことがあります。
公務員の地位確認訴訟の事案と争点
郵政事務官として採用された人に、禁錮以上の刑(拘禁刑)に処せられたことによる失職事由が発生しました。しかし本人はその事実を明らかにせず、約26年11か月にわたって勤務を続け、給与も受け取っていました。
その後、国側が国家公務員法上の失職を主張したため、本人は公務員としての地位があることの確認を求めました。争点は、国が長期間勤務させて給与を支給してきた後に失職を主張することが、信義則違反または権利濫用になるかという点です。
最高裁判決が示した判断
最高裁は、国の失職の主張は、信義則に反し、権利の濫用に当たるとはいえないと判断しました。
長期間勤務していたとしても、本人は失職事由の発生を隠したまま、事実上勤務を続けていたにすぎません。この事情の下では、信頼を主張する本人側に帰責事由があるため、長年にわたる勤務実績だけを理由に、国の失職主張を信義則違反や権利濫用とすることはできないとされたのです。
まとめ
信頼保護の原則は、行政の具体的な働きかけを前提に行動した人の信頼を、一定の条件で守るものです。その判断では、行政側の対応だけでなく、信頼する側に事実を隠すなどの帰責事由があるかも重要になります。公務員の地位確認訴訟では、失職事由を隠して勤務を続けた事情を重視し、国の失職主張は信義則違反・権利濫用に当たらないと判断されました。
