自己決定権とは、私的な事項について、公権力の干渉を受けずに自ら決定できる権利です。憲法に「自己決定権」という言葉が直接書かれているわけではありませんが、憲法13条の幸福追求権を根拠とする「新しい人権」の一つと考えられています。
自己決定権とは?憲法13条を根拠とする権利
自己決定権の意味
自己決定権は、個人の人格的生存に必要不可欠な行為を自ら決定する自由を保障するものです。どの範囲まで保護されるかについては議論がありますが、人格的生存に必要不可欠な人権を保障するものと理解されています。
喫煙や飲酒、服装、安楽死など、さまざまな事柄が自己決定権の問題となり得ます。
自己決定権と輸血拒否の関係
輸血を受けるかどうかは、生命や身体に関わるだけでなく、患者の宗教上の信念にも関係します。そのため、患者が輸血を拒否する明確な意思を有している場合、その意思決定を尊重すべきかが問題になります。
エホバの証人輸血拒否事件の概要
エホバの証人の信者である患者は、宗教上の理由から、いかなる場合でも輸血を受けないという固い意思を有していました。患者は、輸血を伴わない手術を受けられると期待して入院しています。
医師は、患者の固い輸血拒否の意思を知っていました。しかし、手術中にほかの救命手段がなくなった場合には輸血する方針を、患者に説明しないまま手術を実施しました。そして、実際に手術中に輸血を行ったため、患者は意思に反して輸血されたとして損害賠償を請求しました。
最高裁判決が認めた自己決定権の内容
輸血を拒否する意思決定は人格権の一内容
最高裁判所は、患者が宗教上の信念から輸血を伴う医療行為を拒否する明確な意思を有している場合、その意思決定をする権利は人格権の一内容として尊重されなければならないと判示しました(最判平成12年2月29日)。
つまり、患者には、宗教上の信念に基づいて輸血を受けるかどうかを決める権利があると認められたのです。
医師が説明せず輸血した場合の責任
医師が、患者の固い輸血拒否の意思と、輸血なしで手術を受けられると患者が期待していたことを知り、さらに輸血が必要になる可能性も認識していた場合には、輸血の方針を説明する必要があります。
それにもかかわらず、「ほかに救命手段がない場合は輸血する」という方針を説明せずに手術を行い、輸血したときは、患者が手術を受けるかどうかについて意思決定をする権利を奪ったことによって、医師は不法行為に基づく損害賠償責任を負います。
まとめ:自己決定権と輸血拒否事件の結論
自己決定権は、憲法13条を根拠とする新しい人権の一つです。エホバの証人輸血拒否事件では、宗教上の理由による明確な輸血拒否の意思決定が、人格権の一内容として認められました。
患者の意思を知りながら、輸血の可能性を説明せずに手術を行い、輸血した場合、患者が手術を受けるかどうかについて意思決定をする権利を奪ったとして、損害賠償責任を負います。この判例は、患者の意思を尊重することと、判断に必要な説明を行うことの重要性を示しています。
