行政上の義務の履行を民事訴訟で請求できる?司法的執行の可否を解説

行政庁が条例や法律に基づいて国民に義務を課しても、相手が従わないことがあります。このとき、行政主体は、通常の民事訴訟を起こして履行を求められるのでしょうか。

結論として、行政主体が行政権の主体として行政上の義務の履行を求める民事訴訟は、原則として認められません。行政上の義務は、原則として代執行や行政上の強制徴収など、法律が定める行政上の強制執行によって実現します。

行政上の義務の履行を民事訴訟で請求できるか

行政上の強制執行ができる場合でも、民事訴訟は原則として認められない

行政上の義務には、行政庁が自ら履行を実現するための仕組みが設けられている場合があります。たとえば、他人が代わって実施できる作業を義務者が行わないとき、行政庁が代わりに実施し、その費用を徴収する代執行が挙げられます。また、国税などの金銭債務には、滞納処分による強制徴収が認められることがあります。

このように法律が行政主体に独自の強制手段を与えている場合、その手段を使わず、一般の私法上の債権と同じように民事訴訟を提起して民事執行を利用することはできません。最高裁も、農業共済組合が独自の強制徴収手段を使わずに債権の支払いを求めた事件で、このような司法的執行を否定しました(最大判昭41・2・23)。

行政上の強制執行の規定がない場合でも、原則として民事訴訟はできない

では、行政上の強制執行について法律に具体的な定めがない場合はどうでしょうか。この場合でも、行政主体が当然に民事訴訟を起こせるわけではありません。

行政主体が行政権の主体として義務の履行を求める訴訟は、原則として裁判所が扱う「法律上の争訟」に当たらず、不適法となります。

なぜ行政上の義務について民事訴訟が認められないのか

行政上の義務の履行確保は、原則として行政上の制度によって行うため

行政上の義務の履行確保は、行政目的を実現するための行政作用です。行政代執行法は、別の法律に定めがある場合を除き、行政上の義務の履行確保を同法によると定めています。そのため、行政上の義務を一般の民事債権と同じ方法で実現することは、制度の趣旨に反します。

行政主体の訴訟は、自己の権利利益の救済を目的とするものではないため

「法律上の争訟」とは、当事者間の具体的な権利義務や法律関係について、法令を適用して解決できる争いをいいます。行政主体が公益や法規の適正な実現のために義務履行を求める訴訟は、行政主体自身の権利利益を守る訴訟とは区別されます。

民事訴訟が認められる例外

法律に特別の規定がある場合

法律が特別に行政主体による訴訟を認めている場合は、例外として提起できます。ただし、行政上の強制執行の規定がないことだけを理由に、民事訴訟へ切り替えることはできません。個別の法律に特別な訴訟規定があるかを確認する必要があります。

行政主体が財産権の主体として権利の実現を求める場合

国や地方公共団体が、行政権の主体ではなく、財産権の主体として自らの財産上の権利利益の保護を求める場合は、法律上の争訟に当たり得ます。したがって、行政主体が関係する訴訟がすべて禁止されるわけではありません。

判例:宝塚市条例事件

最高裁は、行政主体が専ら行政権の主体として行政上の義務の履行を求める訴訟は、原則として不適法と判断しました。一方、財産権の主体として自己の財産上の権利利益を守る訴訟は、法律上の争訟に当たり得ると整理しています(最判平14・7・9)。

まとめ:行政上の義務の司法的執行は原則として認められない

行政上の義務について、行政主体が民事訴訟で履行を請求することは原則としてできません。行政上の強制執行が可能な場合はもちろん、その規定がない場合も同様です。例外的に、法律に特別の定めがある場合や、行政主体が財産権の主体として権利の実現を求める場合には、民事訴訟が認められる可能性があります。