公務員の違法な職務行為によって損害を受けた場合、誰に賠償を請求できるのでしょうか。結論として、国家賠償法1条1項が適用されるケースでは、原則として公務員個人ではなく、国または公共団体が賠償責任を負います。
国家賠償請求では、原則として公務員個人ではなく国や公共団体に請求する
国家賠償法1条1項の基本的な責任関係
次の要件を満たすと、国または公共団体に損害賠償責任が生じます。
- 国または公共団体の公権力の行使に当たる公務員であること
- 職務を行うについての行為であること
- 公務員に故意または過失があること
- 行為が違法であること
- 他人に損害が発生したこと
「公権力の行使」は、許可や処分のような権力的な行為だけを指すとは限りません。行政指導や、公立学校での教育活動なども含まれる場合があります。
被害者は公務員個人ではなく、国または公共団体に賠償を求める
国家賠償法1条1項は、公務員個人ではなく「国又は公共団体」が賠償する仕組みを定めています。そのため、担当した公務員が特定できていても、原則として請求の相手方は国や公共団体です。
また、複数の職員が関与し、誰のどの行為が直接の原因か特定できない場合でも、一連の職務行為の中に故意または過失による違法行為があり、それによって損害が生じたと認められれば、国や公共団体が責任を免れないことがあります。
どの公共団体が責任を負うのか
国家公務員の職務行為であれば、原則として国が責任を負います。一方、地方公共団体の職員による行為であれば、原則としてその地方公共団体が責任を負います。
たとえば、都道府県警察の警察官による捜査で損害が生じた場合、原則として責任を負うのはその都道府県であり、国が当然に責任を負うわけではありません。
公務員個人に直接の損害賠償責任を問えるのか
国家賠償法に基づく請求では、公務員個人は原則として責任を負わない
職務上の行為について国家賠償法1条1項に基づく請求をする場合、公務員個人を被告として賠償を求めることは原則としてできません。
民法709条による公務員個人への請求も原則として認められない
同じ職務行為について、公務員個人に民法709条の不法行為責任を追及することも、原則として認められません。公権力の行使について国家賠償法1条が適用される場合、国または公共団体が賠償責任を負うためです。
公権力の行使を民間事業者に委託していた場合でも、国や公共団体が国家賠償責任を負う場面では、行為者個人や使用者に対する民法上の責任が否定されることがあります。
具体例:違法な行政指導で損害を受けた場合
市が、開発指導要綱に基づく教育施設負担金を納付しなければ、水道契約の締結を拒否するなどの措置を講じることを前提に、負担金の納付を求めたとします。このような行政指導が、任意に寄付金の納付を求める限度を超えて事実上納付を強制するものであれば、違法な公権力の行使となる場合があります。
この場合も、担当職員個人に請求するのではなく、市に対して国家賠償を求めることを検討します。ただし、行政指導が違法な公権力の行使に当たり、故意または過失によって損害が発生したことが必要です。
公務員に故意・重大な過失がある場合は、国や公共団体から求償される
国や公共団体には公務員への求償権がある
国または公共団体が被害者に賠償した後、公務員に故意または重大な過失があれば、その公務員に対して求償することができます。これは国家賠償法1条2項に定められた、国や公共団体と公務員との内部的な責任関係です。
したがって、求償の可能性があることは、被害者が公務員個人へ直接請求できるという意味ではありません。
故意・重大な過失がない場合との違い
公務員に単なる過失があっただけで、直ちに個人への求償が認められるわけではありません。原則として、求償の対象となるのは故意または重大な過失がある場合です。複数の公務員が共同して故意に違法行為をした場合には、連帯して求償義務を負うことがあります。
