損失補償における特別の犠牲とは?奈良県ため池条例事件を解説

損失補償における「特別の犠牲」とは

損失補償の基本的な意味

損失補償とは、適法な公権力の行使によって、特定の人に生じた財産上の損失を補う制度です。社会全体の利益のために一部の人へ負担が集中した場合、その犠牲を社会全体で公平に分担するという考え方に基づいています。

根拠となるのは、憲法29条3項です。また、適法に財産権を侵害された場合に、社会全体で特定の個人が被った犠牲を分担するという平等原則を定める憲法14条にも由来します。財産を公共のために用いる場合の収用だけでなく、財産の利用や処分を制限する「公用制限」も、損失補償の対象となることがあります。ただし、対象は財産上の損失であり、生命・身体への侵害や精神的損害は含まれません。

「特別の犠牲」の意味

財産権が制限されたとしても、直ちに補償が認められるわけではありません。社会の一員として、誰もが当然に受け入れるべき範囲の制限であれば、損失補償の対象とはなりません。

これに対し、一般に当然に受忍すべき範囲を超えて、特定の財産権者に特別な負担が課されている場合には、「特別の犠牲」に当たることがあります。この場合に、憲法29条3項に基づく補償が問題となります。

奈良県ため池条例事件で問題となったこと

事件の概要

奈良県ため池条例は、災害を防止し、公共の福祉を守ることを目的とする条例でした。同条例により、ため池の堤とうを使用する財産上の権利の行使が大きく制限されました。

そこで、その財産権を持つ者が、制限によって生じた損失について、憲法29条3項に基づく補償を求めました。

最高裁判所の判断

最高裁判所は、条例による制限について、災害防止と公共の福祉のために社会生活上やむを得ないものと判断しました。ため池の堤とうを使用できる財産権を持つ者は、このような制約を当然に受忍すべき立場にあるとされたのです。

そのため、制限は著しいものであっても、社会生活上やむを得ない制約として「特別の犠牲」には当たらず、憲法29条3項による損失補償は必要ないと判示されました。

判決から分かる判断基準

この判例は、財産権への制限が、災害防止や公共の福祉のために社会生活上やむを得ないものか、財産権を有する者が当然に受忍すべき制約かが重要であることを示しています。

特別の犠牲に当たる場合、損失補償はどうなるか

特定の財産権者に、通常受忍すべき範囲を超える負担が課された場合、損失補償の対象となり得ます。損失補償については、国家賠償法のような一般法は存在せず、個々の法律や条例に補償規定が置かれています。

個別の補償規定がない場合でも、判例上、憲法29条3項を直接の根拠として補償を請求できる場合があります。ただし、実際に認められるかどうかは、その制限が「特別の犠牲」に該当するかによって判断されます。

まとめ

  • 「特別の犠牲」とは、社会生活上当然に受忍すべき範囲を超えて、特定の人に課される特別な財産上の負担です。
  • 財産権が制限されても、公共の福祉のためにやむを得ず、一般に受忍すべき制限であれば補償は認められません。
  • 奈良県ため池条例事件では、堤とうの利用制限は災害防止のために当然受忍すべきものとされ、損失補償は否定されました。