損失補償とは、適法な公権力の行使による特別な財産上の損失を補償する制度
損失補償の意味
損失補償とは、適法な公権力の行使によって、特定の人に生じた財産上の特別な犠牲を、全体的な公平負担の見地から調整するための財産的補償です。
根拠となるのは、私有財産を公共のために用いる場合の「正当な補償」を定める憲法29条3項や、平等原則を定める憲法14条です。
損失補償には一般法がなく、個別の法律や条例が根拠となる
国家賠償法のように、損失補償全般を定める一般法はありません。実際の請求は、個々の法律や条例に設けられた補償規定に基づいて行います。
ただし、個別法に補償規定がない場合でも、憲法29条3項を直接の根拠として補償を請求することができます。
損失補償と国家賠償の違い
損失補償は適法な公権力の行使、国家賠償は損害賠償責任が前提
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 損失補償 | 適法な公権力の行使によって生じた、特定人の財産上の特別な犠牲を補償する |
| 国家賠償 | 国家賠償法に基づき、国や公共団体の損害賠償責任を問う |
このように、損失補償は適法な公権力の行使による財産上の損失を対象とし、国家賠償は国家賠償法などに基づく損害賠償責任を問題とします。
損失補償の対象になる損失・ならない損失
補償の対象は財産上の損失
対象となるのは、財産権を奪う公用収用だけではありません。財産の利用を制限する公用制限も、損失補償の対象に含まれると解されています。
ただし、社会生活上当然に受忍すべき範囲を超える「特別の犠牲」に当たることが必要です。
生命・身体への侵害や精神的損害は、損失補償の対象外
損失補償は財産上の損失を対象とする制度です。そのため、人の生命や身体に加えられた侵害による損失、精神的損害や人的損害は、補償の対象とはなりません。
社会生活上、当然に受忍すべき制限は補償されない
公共の安全や福祉のために、社会の構成員として当然に受忍すべき財産権の制限は、損失補償の対象となりません。
たとえば、災害を防止し公共の福祉を保持するための財産権の制限について、社会生活上やむを得ないものとして補償が否定された判例があります。また、都市計画に関する建築制限が60年以上続いた場合でも、一般に受忍すべき制限の範囲を超える特別の犠牲とはいえず、直接憲法29条3項に基づく補償請求が認められなかった判例があります。
一方、都有行政財産の使用許可が行政財産本来の用途や目的上の必要に基づいて取り消された場合も、特別の事情がない限り、使用権喪失についての補償は認められません。
補償される金額はどのように決まるのか
憲法29条3項の「正当な補償」
正当な補償の考え方には、失われた財産価値を完全に埋め合わせる完全補償説と、合理的な基準で算定した相当額を補償すればよいとする相当補償説があります。
判例は、自作農創設特別措置法に基づく農地買収では相当補償説を採用し、土地収用法による損失の補償では完全補償説を採用しています。
土地の収用では完全な補償が必要
土地収用法による土地の収用では、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくするような完全な補償が必要とされます。金銭で補償する場合は、近隣で同等の代替地を取得できる程度の金額が必要です。
まとめ
- 損失補償とは、適法な公権力の行使による財産上の特別な犠牲を補償する制度です。
- 国家賠償との違いは、損失補償が適法な公権力の行使を前提とする点です。
- 補償の対象は財産上の損失であり、生命・身体への侵害や精神的損害は対象となりません。
- 社会生活上当然に受忍すべき財産権の制限は、原則として補償されません。
- 土地収用法による土地収用では、完全な補償が必要とされます。
