売買契約では、買主は代金を支払い、売主は契約の内容に適合する財産権を買主へ移転する義務を負います。売買代金の支払時期について別段の定めがない場合、目的物の引渡しと代金の支払いは同時履行の関係になります(民法573条)。
もっとも、第三者が目的物の権利を主張している場合や、不動産に契約の内容に適合しない抵当権の登記がある場合には、買主が売買代金の支払いを拒めることがあります。ただし、要件を満たす必要があり、いつでも全額を拒めるわけではありません。
買主は売買代金の支払いを拒める場合がある
民法は、買主が目的物の権利を取得できない危険や、取得した権利を失う危険があるときに、一定の条件のもとで代金の支払いを拒むことを認めています。
支払いを拒める範囲は、第三者が主張する権利の内容や、買主が権利を取得できない、または失うおそれの程度によって異なります。
第三者が権利を主張している場合の支払い拒絶
支払いを拒める要件
次のような場合、買主は、危険の限度に応じて代金の全部または一部の支払いを拒めます(民法576条)。
- 第三者が、売買の目的物について権利を主張している
- そのため、買主が売買の対象となった権利の全部または一部を取得できない、または失うおそれがある
- 売主が相当な担保を提供していない
売主が相当な担保を提供した場合は、買主は、民法576条を理由として支払いを拒めません。
拒める代金の範囲
第三者の権利主張によって買主が権利を失う危険が目的物全体に及ぶ場合は、代金全額の支払いを拒めます。一方、危険が権利の一部に限られる場合は、その危険の限度で一部の支払いを拒めます。
不動産に抵当権の登記がある場合の支払い拒絶
抵当権消滅請求の手続が終わるまで拒める
買い受けた不動産に、契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、売買代金の支払いを拒めます(民法577条1項)。
たとえば、抵当権がない不動産として契約したのに、登記上その抵当権が残っている場合が該当します。抵当権が付いた状態で取得することが契約上予定されている場合は、この規定による支払い拒絶の対象になりません。
なお、この規定は、先取特権または質権の登記がある場合にも準用されます(民法577条2項)。
売主が買主に手続を求めることもできる
買主が抵当権などを理由に支払いを拒んでいる場合、売主は、買主に対して遅滞なく抵当権消滅請求をするよう求めることができます。また、目的物の権利を失うおそれがあることや、抵当権・先取特権・質権の登記があることを理由に買主が支払いを拒んでいる場合、売主は買主に対して代金の供託を請求することもできます(民法578条)。
まとめ
第三者が目的物の権利を主張し、買主が権利を取得できない、または失うおそれがある場合、買主は危険の限度で売買代金の支払いを拒めます。ただし、売主が相当な担保を提供した場合は拒めません。
また、不動産に契約の内容に適合しない抵当権の登記がある場合は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで支払いを拒めます。実際に拒絶できるかは、第三者の権利主張の内容や、抵当権が契約上予定されていたか、売主が担保を提供したかなどを確認して判断する必要があります。
