行政上の義務履行確保とは、行政庁が国民に課した義務を実現し、行政目的を達成するための仕組みです。義務が守られない場合に用いられる代表的な手段には、行政上の強制執行、即時強制、行政罰があります。
行政上の義務履行確保とは
一定の行政行為には、行政庁が自ら義務の実現を図れる「自力執行力」が認められる場合があります。主な手段の違いは次のとおりです。
| 手段 | 目的・特徴 |
|---|---|
| 行政上の強制執行 | すでに存在する義務を、将来に向けて実現する |
| 即時強制 | 義務の履行を待たず、行政目的のために直接措置を取る |
| 行政罰 | 過去の義務違反に対する制裁として罰を科す |
行政上の強制執行と行政罰は目的が異なります。そのため、同じ義務違反について、義務を実現するための強制執行と、過去の違反への行政罰を併科することが可能です。
行政上の強制執行とは
行政上の義務が履行されないときに、行政目的を実現するため強制的に義務の履行を確保する制度です。次の4種類があります。
- 代執行:他人が代わって行える作為義務(代替的作為義務)が対象
- 執行罰:履行しなければ過料を科すと予告し、心理的圧力で履行を促す
- 直接強制:身体や財産に直接実力を加え、履行された状態を実現する
- 行政上の強制徴収:履行されない金銭債務を財産の換価などにより徴収する
執行罰と直接強制は、代替的作為義務以外の作為義務や不作為義務も対象にすることができます。一方、行政上の強制徴収の対象は一定の金銭債務に限られます。
代執行の要件
代執行とは、義務者に代わって行政庁または第三者が行為を実施し、その費用を義務者から徴収する制度です。行政代執行法または個別法により、次の要件を満たす必要があります。
- 法律、法律の委任に基づく命令・規則・条例により直接に命じられ、または法律に基づき行政庁により命じられた代替的作為義務が履行されないこと
- 他の手段で履行を確保することが困難で、不履行を放置することが著しく公益に反すること
行政上の強制執行のうち、一般法があるのは代執行です。執行罰や直接強制は法律上の根拠が必要で、条例だけを根拠に実施することはできません。
代執行の手続と例外
原則として、行政庁は相当の履行期限を定めて書面で戒告し、履行されなければ代執行令書を送付します。令書には、実施時期、執行責任者の氏名、費用の概算見積額を記載します。執行責任者は、本人であることを示す証票を携帯し、要求があれば提示しなければなりません。その後、執行責任者が代執行を行い、実際にかかった費用の納付を命じて徴収します。
非常事態や危険が切迫し、手続を行う時間がない場合は、戒告や代執行令書の送付を省略できます。代執行費用は、国税滞納処分の例により徴収できます。また、個別法が要件を緩和し、簡易代執行を認める場合もあります。
執行罰・直接強制・行政上の強制徴収
執行罰は、法律に定めがある場合に認められます。行政上の目的を達成するため、義務の履行があるまで複数回にわたり科すことも可能です。
直接強制は、人権侵害の危険性が高いため、法律に定められた場合に限り認められます。例として、成田新法があります。
行政上の強制徴収には一般法がなく、個別の法律に定められた手続によって行われます。
即時強制と行政罰の違い
即時強制とは
即時強制は、国民の義務の履行がなくても、一定の強制をして行政目的を達成する必要がある場合に、行政庁が直接措置を取る制度です。すでに課された義務の不履行を将来に向けて解消する行政上の強制執行とは異なり、義務違反への制裁を目的とするものでもありません。
行政罰とは
行政罰は、国民が行政上の義務を履行しなかった場合に、その制裁として罰を科すものです。過去の義務違反に対する制裁であるため、将来の義務履行を実現する行政上の強制執行や、行政目的を達成するための即時強制とは目的が異なります。
