取消訴訟では、行政処分が違法かどうかだけでなく、取消判決によって原告の権利利益を回復できるかも問題になります。処分の効果が期間の経過などでなくなった後も訴訟を続けられる場合があるため、判例の整理が重要です。
狭義の訴えの利益とは?判例を判断する基本的な考え方
狭義の訴えの利益の意味
狭義の訴えの利益とは、原告が取消訴訟に勝訴することにより、その権利利益が客観的に回復可能である利益をいいます。
もっとも、行政事件訴訟法9条1項は、処分の効果が期間の経過などでなくなった後も、取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含むと定めています。そのため、処分の効果がなくなったというだけで、直ちに訴えの利益が否定されるわけではありません。
処分の効果がなくなった場合の考え方
例えば、建築確認の取消訴訟が係属している間に建築工事が完了した場合、建築確認は建築基準法に違反する建築物の建築を未然に防ぐことを目的としているため、建築確認を取り消す原告の利益が失われ、狭義の訴えの利益は認められません(最判昭59・10・26)。
一方で、免職処分が取り消されない限り、違法な免職処分がなければ有するはずだった給料請求権その他の権利利益について救済を求められなくなる場合のように、処分の効果がなくなった後も法律上の利益が残ることがあります(最大判昭40・4・28)。
狭義の訴えの利益が認められた判例
- 免職処分を受けた公務員が公職に立候補した場合(最大判昭40・4・28):公務員としての地位を回復することができなくなった後も、免職処分の効力を排除することが権利利益を回復するために必要な手段であるとして、訴えの利益を認めました。
- 免職処分を受けた公務員が死亡した場合(最判昭49・12・10):訴えの利益を認めました。
- 運転免許の取消処分を争っている間に免許の有効期限が切れた場合(最判昭40・8・2):訴えの利益を認めました。
- 土地改良事業施行認可処分の取消訴訟中に工事及び換地処分が完了した場合(最判平4・1・24):認可処分の取消しを求める訴えの利益を認めました。
- 行政文書の非公開決定取消訴訟で、当該行政文書が書証として提出された場合(最判平14・2・28):非公開決定の取消しを求める訴えの利益を認めました。
- 運転免許の更新時に優良運転者ではなく一般運転者として扱われた場合(最判平21・2・27):優良運転者である旨の記載のない免許証の交付を受けた場合の更新処分の取消しを求める訴えの利益を認めました。
狭義の訴えの利益が認められなかった判例
- 特定日の公園使用許可の拒否処分を争っている間に、その特定日が経過した場合(最大判昭28・12・23):訴えの利益を認めませんでした。
- 保険医指定取消処分の取消訴訟中に、保険医指定制度が廃止された場合(最判昭41・11・15):訴えの利益を認めませんでした。
- 生活保護の受給権を争っている間に原告が死亡した場合の相続人の訴え(最大判昭42・5・24):訴えの利益を認めませんでした。
- 明渡しに関わる代執行が完了した場合の土地収用法による明渡裁決の取消しを求める訴え(最判平9・10・28):訴えの利益を認めませんでした。
- 運転免許の停止処分期間の経過後、無違反・無処分で1年が経過した場合(最判昭55・11・25):訴えの利益を認めませんでした。
- 保安林指定解除処分の取消訴訟中に、洪水防止や飲料水確保のための代替施設が完備された場合(最判昭57・9・9):保安林が存続する必要がなくなったとして、訴えの利益を認めませんでした。
- 建築確認処分の取消訴訟中に、建築工事が完了した場合(最判昭59・10・26):訴えの利益を認めませんでした。
- 市街化区域内の土地について、都市計画法に基づく開発行為に関する工事が完了した場合(最判平5・9・10):開発許可の取消しを求める訴えの利益を認めませんでした。
- 再入国の許可申請に対する不許可処分について取消訴訟を提起した外国人が出国した場合(最判平10・4・10):当該処分の取消しを求める訴えの利益を認めませんでした。
- 後に衆議院が解散した場合の衆議院議員選挙を無効とすることを求める訴え(最判平17・9・27):訴えの利益を認めませんでした。
- 原告らに係る保育の実施期間がすべて満了した場合の市立保育所の廃止条例の制定行為の取消しを求める訴え(最判平21・11・26):訴えの利益を認めませんでした。
市街化調整区域内の開発許可に関する例外
市街化区域内の土地については、開発行為に関する工事が完了した場合に開発許可の取消しを求める訴えの利益が失われるとされています。一方で、市街化調整区域内にある土地を開発区域として都市計画法による開発許可を受けた開発行為については、工事が完了し、検査済証が交付された後も、開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われないとする判例があります(最判平27・12・14)。
このように、狭義の訴えの利益は、処分の効果がなくなったかどうかだけで一律に決まるものではありません。行政事件訴訟法9条1項の定めを踏まえ、取消しによって回復すべき法律上の利益が残っているかを、個々の判例に照らして判断する必要があります。
