行政法における信義則とは?適用要件と判例をわかりやすく解説

行政法における信義則とは、行政の活動と国民との関係において、権利の行使や義務の履行を信義に従い誠実に行うべきだとする法の一般原則です。ただし、行政には「法律による行政の原理」があるため、行政庁の表示を信頼したというだけで、直ちに信義則が適用されるわけではありません。

行政法における信義則とは

信義則の意味と法的根拠

民法1条2項は、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と定めています。この考え方は、行政の活動と国民との関係にもおいて重要な原則です。

法律による行政の原理との関係

行政は法律に違反する行為をすることができません。そのため、法律による行政の原理よりも信義則を適用するかどうかは、慎重に判断されます。特に租税関係では、租税法律主義に加え、納税者間の平等・公平も重視されます。

行政法で信義則が適用される4つの要件

判例は、信義則を適用する場合の要件として、次の4点を示しています。ただし、信義則が認められるためには、これらに加えて、信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が必要です。

  1. 行政庁が信頼の対象となる公的見解を表示したこと
  2. 国民がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したこと
  3. 後に表示に反する課税処分が行われ、国民が経済的不利益を受けたこと
  4. 国民の側に責められる事情がないこと

行政法における信義則の判例

最判昭和62年10月30日―租税関係での信義則

最高裁は、租税法規に適合する課税処分であっても、特別の事情があれば、信義則の法理を適用して違法なものとして取り消すことができる場合があるとしました。ただし、租税法律主義や納税者間の平等・公平を犠牲にしても、課税を免れさせて信頼を保護しなければ正義に反する場合に限られます。

判断に当たっては、①税務官庁が信頼の対象となる公的見解を表示したこと、②納税者がその表示を信頼して行動したこと、③表示に反する課税処分により納税者が経済的不利益を受けたこと、④納税者の責めに帰すべき事由がないことが考慮されます。この判例からも、租税関係での信義則は厳格に適用されることが分かります。

その他の判例から見る信義則の限界

最判平成28年4月21日は、未決勾留による拘禁関係について、当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係とはいえないとしました。そのため、国は、拘置所に収容された被勾留者に対して、損害賠償責任を生じさせる信義則上の安全配慮義務を負わないと判断されました。

また、最判平成19年2月6日は、違法な通達に基づく事務処理を行っていた側が、受給権者による権利の不行使を理由に消滅時効を主張することは、当該被爆者について権利行使が合理的に期待できる特段の事情がない限り、信義則に反して許されないと判断しました。

まとめ

行政法上の信義則は、行政の活動と国民との関係において、信頼を保護する必要がある場合に問題となる原則です。ただし、法律による行政の原理、租税法律主義、平等・公平の要請があるため、適用は例外的です。公的見解、信頼に基づく行動、経済的不利益、国民側の責任の有無を確認し、特別な事情があるかを慎重に判断します。