不動産を購入した後、所有権移転登記をする前に売主が死亡し、その相続人が同じ不動産を別の人へ売却することがあります。この場合、最初の買主と相続人から買った人のどちらが優先されるのでしょうか。
売主の死亡後に相続人が不動産を売却した場合の結論
典型的な取引関係
たとえば、売主の陽一がマンションを買主の美咲へ売却したものの、登記をする前に陽一が死亡したとします。その後、相続人の健太が相続登記をし、同じマンションを直樹へ売却しました。
この場合、美咲と直樹は、同じ不動産についてそれぞれ所有権を取得したと主張する関係になります。
原則として先に登記した者が優先される
不動産の売買契約は、特別な約束がなければ、契約が成立した時点で所有権移転の効力が生じます(民法176条)。したがって、美咲は陽一との契約によって、原則として所有権を取得しています。
しかし、登記をしていない美咲は、相続人である健太には所有権を主張できます。健太は陽一の権利義務を引き継ぐ「包括承継人」であり、民法177条の第三者には当たらないためです。
一方、健太から買った直樹は、単なる相続人ではなく、別の売買によって所有権取得を主張する買主です。そのため、美咲と直樹は対抗関係となり、先に所有権移転登記を備えた側が、相手に所有権を主張できます(民法177条、最判昭33・10・14)。
相続人が先に相続登記をしただけでは、相続人が優先されるわけではない
陽一の死亡により、相続人の健太には相続による所有権移転が生じます。ただし、健太が自分名義の相続登記をしただけで、美咲に対して所有権を否定できるわけではありません。
問題となるのは、健太が直樹へ売却したことで、美咲と直樹という二人の買主が生じた段階です。契約日や代金を支払った日ではなく、原則として所有権移転登記を先に完了したかどうかで優先関係が決まります。
なぜ先に登記した人が優先されるのか
不動産は登記がなければ第三者に所有権を対抗できない
不動産の権利関係は外部から分かりにくいため、誰が所有者なのかを公示する仕組みとして登記が設けられています。民法177条は、不動産の所有権移転を第三者に主張するには登記が必要と定めています。
そのため、売買契約の順番では美咲が先でも、登記をしないままでいると、同じ不動産を取得した直樹に対して所有権を主張できないことがあります。
最初の買主がすでに登記をしている場合
美咲が陽一の死亡前、または健太が直樹へ売却する前に所有権移転登記を済ませていれば、美咲が優先されます。健太がその後直樹へ売却しても、直樹が後から登記して、美咲の先行登記を覆すことはできません。
相続人が単に相続登記をしただけの場合
健太が相続登記をしただけで、まだ第三者へ売却していない場合、美咲と健太は対抗関係にはなりません。美咲は登記がなくても、相続人である健太に対して売買による所有権取得を主張できます。
ただし、第三者に当たるかどうかや、登記取得の経緯が信義則に反する特別な事情があるかによって、結論が異なる場合があります。
