債務者が特定の債権者にだけ担保を設定したり、借金を返済したりすると、他の債権者が回収できる財産が減る場合があります。では、このような担保提供や弁済は、詐害行為取消権の対象になるのでしょうか。
結論として、既に存在する債務について行われた担保提供や弁済は、原則として詐害行為とはいえません。債務者が負っている債務を履行する行為だからです。ただし、一定の要件を満たす場合は、取消しの対象となります。
特定の債権者への担保提供や弁済は、原則として詐害行為にならない
担保の供与や弁済が原則として詐害行為にならない理由
詐害行為取消権は、債務者の財産を不当に減少させ、債権者全体が十分な弁済を受けられなくなる場合に、その財産を回復させる制度です。
一方、既に発生している借金について担保を提供したり、弁済によって債務を消滅させたりすることは、債務者が本来行うべき債務の履行です。その結果、特定の債権者が他の債権者より先に回収できることになっても、それだけで直ちに詐害行為とはいえません。
詐害行為取消権の対象となるための基本的な前提
担保提供や弁済について取消しを求める場合も、一般に次のような前提が必要です。
- 債務者が財産権に関する行為をしたこと
- その行為によって、債権者全体が十分な弁済を受けられない状態になったこと
- 債務者が債権者を害することを知っていたこと
- 取消しを求める債権者が、原則として金銭債権を有していること
- その債権が、担保提供や弁済より前の原因に基づいて発生していること
- 債権が強制執行によって実現できること
さらに、特定の債権者への担保提供・弁済については、民法上の特則により、次の要件が定められています。
担保提供や弁済が詐害行為となる要件
支払不能時に通謀して行った場合
既存の債務についての担保提供や弁済が、次の両方の要件を満たす場合、詐害行為取消請求をすることができます。
- 債務者が支払不能の時に行われたこと
- 債務者と担保権者・弁済を受ける債権者が、他の債権者を害する意図で通謀して行ったこと
支払不能とは、支払能力を欠き、支払期限が来た債務を一般的かつ継続的に返済できない状態をいいます。単に一時的に支払いが遅れたというだけでは、直ちに支払不能とは限りません。
義務に属さない担保提供・弁済の場合
担保の提供や弁済が債務者の義務に属しないもの、またはその時期が義務に属しないものである場合には、別の要件が問題になります。この場合、支払不能になる前30日以内に行われ、かつ、債務者と相手方が他の債権者を害する意図で通謀していたときは、取消請求をすることができます。
過大な代物弁済
不動産などを渡して債務を消滅させる代物弁済が過大である場合には、特定の債権者に対する担保提供等の特則の要件を満たさなくても、一般の詐害行為取消権の要件を満たす限り、消滅した債務の額に相当する部分を超える部分について取消請求をすることができます。
このように、特定の債権者への担保提供や弁済は原則として詐害行為とはいえませんが、支払不能、通謀、他の債権者を害する意図などの要件を満たす場合には、詐害行為取消請求の対象となります。
