行政庁には、法律だけでは具体的に決めきれない事項について、一定の範囲で判断する行政裁量が認められることがあります。たとえば、行政行為をするかどうかや、複数の処分からどれを選ぶかを判断する場合です。
ただし、裁量が認められていても、行政庁が自由に目的や考慮事項を決められるわけではありません。法律の趣旨や目的と異なる目的で権限を行使したり、考慮すべきでない事情を考慮したりすると、裁量権の逸脱・濫用として違法になることがあります。
行政裁量とは?自由に判断できるわけではない
行政裁量の意味
行政裁量とは、法律で行政の活動をすべて具体的に定めることが難しいため、行政機関に一定の判断の余地が認められることです。
もっとも、行政裁量は無制限ではありません。行政庁は、法律の趣旨や目的に沿って裁量を行使する必要があります。
裁量権の逸脱・濫用があると違法になる
行政事件訴訟法30条は、行政庁の裁量処分について、裁量権の範囲を超え、またはその濫用があった場合に、裁判所が処分を取り消すことができると定めています。
そのため、裁量が認められる処分であっても、重要な事実を誤認していないか、法律の目的に沿っているか、考慮すべき事情を検討したかなどが審査されます。
目的拘束違反・他事考慮とは?
目的拘束違反とは
目的拘束違反とは、法律が行政庁に与えた権限を、その法律が予定する目的とは異なる目的で行使することです。形式上は法律に基づく処分でも、実際には別の目的を実現するために行われた場合、行政権の濫用と評価されることがあります。
他事考慮・動機の不正とは
他事考慮とは、処分をする際に、本来考慮してはならない事情を考慮することです。目的拘束違反が権限行使の目的に着目するのに対し、他事考慮は、行政庁がどのような事情を判断材料にしたかという判断過程に着目します。
目的拘束違反・他事考慮の具体例
児童遊園の設置認可を利用した個室付浴場の規制
判例では、児童福祉施設の近隣で個室付浴場を営業できないという規制を利用し、近隣の営業を停止させる目的で、児童遊園の設置申請を異例の速さで認可した事例が問題となりました。
児童遊園は、児童に健全な遊びを与え、健康を増進し、情操を豊かにすることを目的とする施設です。判例は、個室付浴場営業の規制を主な動機・目的とした認可処分について、行政権の濫用に当たる違法な処分と判断しました(最判昭53・6・16)。
考慮すべき事情を十分に検討しなかった事例
公立学校の施設の目的外使用について、使用を許可するかどうかは、原則として管理者の裁量に委ねられています。学校教育上の支障がない場合でも、目的や使用態様などを踏まえ、合理的な判断により不許可とすることができます。
一方で、使用による支障や影響、使用の必要性、代替施設の確保の難しさなどを十分に考慮せず、重視すべきでない事情を重視した結果、社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法になります(最判平18・2・7)。
目的拘束違反・他事考慮が違法と判断されるポイント
法律の趣旨・目的に沿っているか
まず、その権限を定めた法律がどのような目的を持つのかが確認されます。行政庁が、その目的とは異なる目的を主な動機として処分をしていないかが重要です。
判断過程に不合理な点がないか
さらに、重要な事実を誤認していないか、考慮すべき事情を検討したか、考慮すべきでない事情を重視していないかが審査されます。行政裁量は尊重されますが、判断過程に誤りがあり、処分が社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用となる可能性があります。
