思想・信条を理由とする採用拒否は違法?三菱樹脂事件を解説

思想や信条を理由に採用を拒否された場合、「憲法違反や違法ではないのか」と疑問に感じるかもしれません。結論として、思想・信条の自由は憲法19条で保障されていますが、企業と応募者のような私人間の関係では、思想・信条を理由とする採用拒否が直ちに違法となるわけではありません。この点を示した重要な判例が、三菱樹脂事件です。

思想・信条の自由とは?

思想・信条は憲法上保障される

憲法19条は、「思想及び良心の自由」を保障しています。判例・通説では、「思想」と「良心」を厳密に区別する必要はないとされ、国家観、世界観、人生観、主義、主張など、個人の人格に関わる内面的な精神作用を広く含むと考えられています。

思想・信条の自由の内容

この自由には、主に次の内容があります。

  • どのような思想・信条を持つかは、内心にとどまる限り自由であること
  • 自分の思想・信条を告白するよう強制されないこと(沈黙の自由)
  • 特定の思想・信条を持つことを理由に、国家から不利益な扱いを受けないこと

これは、国家が個人の内心を統制することを防ぐための憲法上の保障です。

三菱樹脂事件が示した「採用拒否」の考え方

私人間では、思想・信条の自由がそのまま企業に適用されるわけではない

思想及び良心の自由の保障は、私人間においては、私的自治の原則の尊重と、社会的許容性の限度を超える人権侵害の調整という両面を考慮する必要があります。

三菱樹脂事件の判旨

最高裁は、最大判昭和48年12月12日(三菱樹脂事件)において、企業が特定の思想・信条を持つことを理由に労働者を採用しない場合でも、それを当然に違法とすることはできないと判断しました。

したがって、憲法19条が思想・信条の自由を保障しているからといって、思想・信条を理由とする採用拒否が、直ちに違法になるわけではありません。

思想・信条を理由とする採用拒否を考えるポイント

企業が特定の思想・信条を有する労働者を、そのことを理由として雇い入れなかった場合でも、三菱樹脂事件の考え方が問題になります。

このように、採用拒否を検討する際は、「思想・信条の自由が保障されている」ことと、「企業の採用拒否が当然に違法である」ことを分けて考える必要があります。実際には、企業と応募者の私人間における人権保障と、私的自治との調整が重要になります。

まとめ

  • 思想・信条は、憲法19条の「思想及び良心の自由」によって保障される
  • この保障には、内心の自由、沈黙の自由、不利益な取扱いを受けないことが含まれる
  • ただし、企業と応募者の私人間では、私的自治との調整が必要である
  • 三菱樹脂事件では、企業が思想・信条を理由に採用を拒否しても、当然に違法とはいえないと判断された

したがって、思想・信条を理由とする採用拒否は、直ちに違法と決まるものではありません。