錯誤による意思表示は、一定の要件を満たせば取り消すことができます。ただし、民法95条4項により、善意かつ無過失の第三者には、錯誤による取消しを対抗できません。
錯誤による取消しは、善意無過失の第三者に対抗できない
「対抗できない」とは、錯誤を理由に契約を取り消したとしても、その取消しを第三者に主張して、第三者が取得した権利を否定することはできないという意味です。
第三者が保護されるには、次の2つをともに満たす必要があります。
- 善意:錯誤があったことを知らない
- 無過失:知らなかったことについて落ち度がない
したがって、善意だけ、または無過失だけでは足りず、善意かつ無過失であることが必要です。
たとえば、ミナトが契約書の対象機械を誤って別の機械だと思い、ユウタに売却した後、ユウタがその機械をレイナに譲渡したとします。レイナがミナトの錯誤を知らず、錯誤を知らなかったことについて落ち度もない場合、ミナトは錯誤取消しをレイナに主張できません。
第三者に対抗する前提となる錯誤取消しの要件
重要な錯誤があること
錯誤とは、思い違いをしたまま意思表示をすることです。主に、表示の錯誤と動機の錯誤に分けられます。
表示の錯誤は、本人の意思と表示された内容が一致していない場合です。たとえば、数量を記載する際に単位を取り違えるケースがあります。意思表示に対応する意思を欠き、法律行為の目的や取引上の社会通念から見て重要であることが必要です。
動機の錯誤は、契約をする前提となった事情を誤認していた場合です。その事情についての認識が真実に反し、法律行為の基礎とした事情に当たることに加え、その事情を相手方に表示していなければなりません。表示は、明示的な説明に限らず、黙示的に示された場合も含まれます。
表意者に重大な過失がないこと
表意者に重大な過失があるときは、原則として錯誤取消しはできません。重大な過失とは、甚だしく注意義務を欠く場合をいいます。
ただし、相手方が錯誤を知っていた場合、重大な過失によって知らなかった場合、または相手方も同じ錯誤に陥っていた場合は、例外として取消しが認められます。
錯誤取消しと善意無過失の第三者を判断する流れ
- 表示の錯誤または動機の錯誤があるか
- その錯誤が法律上重要か
- 動機の錯誤であれば、前提事情が相手方に表示されているか
- 表意者に重大な過失がないか、例外に当たるか
- 相手方から権利を取得した第三者がいるか
- 第三者が善意かつ無過失か
錯誤があるだけで、当然に第三者へ取消しを主張できるわけではありません。第三者が善意かつ無過失であるかを、個別の事情から確認する必要があります。
まとめ
錯誤による意思表示は、重要な錯誤などの要件を満たせば取り消すことができます。しかし、その取消しは、善意かつ無過失の第三者には対抗できません。動機の錯誤では前提事情の表示が必要であり、表意者に重大な過失がある場合も原則として取消しは認められません。実際の事案では、錯誤取消しの成立要件と、第三者の善意・無過失を分けて検討します。
