契約が無効になったり、取り消されたりすると、契約を前提とした状態を解消し、受け取ったものを返す原状回復が必要になります。ただし、すべての場合に受け取ったものを全額返還するとは限りません。この記事では、無効・取消しの効果と、返還義務の範囲を説明します。
無効・取消しによって契約はどうなる?
無効の場合
無効とは、法律行為が初めから効力を生じないことです。無効な契約は、当初から効力を生じないものとして扱われます。そのため、無効を主張するために、別途「取り消す」という意思表示をする必要はありません。
すでに契約に基づいて代金や商品を渡していた場合は、そのままにせず、原状回復として相手方に返還を求めることになります。
取消しの場合
取消しとは、いったん有効な法律行為を、取消権者の意思表示によって、初めから効力がなかったことにする制度です。取消しが行われると、法律上は無効の場合と同じ状態になります。
したがって、当事者は契約によって受け取ったものを返し、契約がなければ存在したはずの状態に戻すことになります。
無効・取消し後の原状回復義務
原則は受け取ったものの返還
民法121条の2第1項は、無効な行為や取り消された行為に基づいて給付を受けた者に、相手方を原状に復させる義務を負わせています。
- 金銭を受け取った場合:受け取った金銭を返す
- 商品や物を受け取った場合:原則として、その物を返す
- 双方が給付した場合:それぞれが受け取ったものを返す
例えば、機器の売買契約が無効となった場合、売主は受け取った代金を返し、買主は受け取った機器を返すのが基本です。
返還できない場合
受け取った物をすでに使った、失くした、壊したという場合には、何をどこまで返すべきかが問題になります。この返還範囲は、返還義務を負う人の立場や、無効・取消しの原因を知っていたかどうかによって異なります。
「現に利益を受けている限度」に制限される場合
意思無能力者・制限行為能力者
意思無能力者や制限行為能力者は、行為によって現に利益を受けている限度で返還義務を負います(民法121条の2第3項)。これは、現在も残っている利益を基準に返還範囲を決めるという意味です。
そのため、受け取った金銭を娯楽のために使い切った場合など、利益が現在残っていなければ、原則としてその分は返還対象になりません。一方、生活費に使った場合は、本来支出するはずだった生活費を免れたことで、利益が形を変えて残っていると評価され、返還が必要になることがあります。
無償行為で、無効・取消しを知らなかった場合
贈与のような無償行為では、給付を受けた人が、その行為が無効であることや、取り消すことができることを知らなかった場合、現に利益を受けている限度で返還すれば足ります(民法121条の2第2項)。
「無償行為」であることと、「無効・取消しを知らなかったこと」の両方がポイントです。
まとめ
- 無効は、法律行為が初めから効力を生じないことです。
- 取消しは、いったん有効な行為を、初めから無効だった状態にすることです。
- 無効・取消しの後は、原則として受け取ったものを返還します。
- 意思無能力者・制限行為能力者や、無償行為について事情を知らなかった受領者は、現に利益を受けている限度で返還します。
- 現に利益を受けている限度とは、消費・滅失・損傷した部分を除き、現在も残っている利益を基準とする考え方です。
