他人物売買とは、売主が契約時点で所有していない土地や物、その他の権利を売買の対象とする契約です。売主が所有者でない以上、契約は無効になるようにも思えますが、他人物売買も契約自体は有効に成立します。
もっとも、売主は、その権利を第三者から取得し、買主に移転する義務を負います(民法561条)。売主が後から権利を取得して買主に移転できれば、契約を履行できます。
他人物売買とは?契約は有効に成立する
他人物売買の意味
他人物売買とは、売買の目的となる物や権利が、契約時に売主ではなく第三者に属している場合をいいます。権利の全部が他人にある場合だけでなく、権利の一部だけが他人に属する場合も含まれます。
たとえば、売主が第三者所有の美術品について買主と売買契約を結び、その後、所有者から美術品を購入して買主に引き渡すケースです。所有者が当初から売却を望んでいなかったとしても、その事情だけで売買契約が無効になるわけではありません。
売主が負う基本的な義務
売主は、第三者から権利を取得し、それを買主へ移転しなければなりません。つまり、契約時点で権利を持っていないこと自体は問題ではなく、最終的に契約どおり権利を移転できるかが重要です。
売主が他人の権利を移転できない場合の責任
権利の全部を移転できない場合
売主が第三者から権利を取得できず、買主に権利の全部を移転できないときは、債務不履行となります。買主は、相当期間を定めて履行を求めたうえで契約を解除できます(民法541条)。また、権利移転が不能になった場合は、催告をしない解除が認められることもあります(民法542条1項1号)。
さらに、売主に責任のある事情(帰責事由)がある場合には、買主は損害賠償も請求できます(民法415条)。一方、売主に帰責事由がなくても解除が認められる場合はありますが、損害賠償請求には原則として売主の帰責事由が必要です。
所有者が売却を望んでいない場合
目的物の所有者が、売買契約の時点で第三者への譲渡を望んでいなかったとしても、他人物売買は有効です。売主は「所有者に売る意思がないから契約は無効」と主張できません。ただし、権利を取得して買主に移転できなければ、上記の債務不履行責任が問題になります。
権利の一部しか移転できない場合の買主の権利
権利の一部が他人に属している場合
売買の対象となる権利の一部が第三者に属し、その部分を買主に移転できない場合、買主が取得した権利は契約内容に適合しません。この場合、権利の契約不適合に関する規定が適用されます(民法565条)。
買主が請求できる主な内容
- 追完請求:売主に対し、第三者の権利を取得して移転するなど、契約に適合する状態にするよう求められます(民法562条)。
- 代金減額請求:追完がされない場合、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます。追完が不能、拒絶された場合などは、催告なしで請求できることもあります(民法563条)。
- 損害賠償・解除:追完請求や代金減額請求をしても、損害賠償請求や契約解除が妨げられるわけではありません(民法564条)。ただし、損害賠償には売主の帰責事由が必要です。
第三者の権利主張がある場合の代金支払い
第三者が権利を主張し、買主が権利を取得できない、または失うおそれがあるときは、買主は危険の程度に応じて代金の全部または一部の支払いを拒めます(民法576条)。ただし、売主が相当な担保を提供した場合は、支払いを拒めないことがあります。
権利の契約不適合に関する期間
権利の契約不適合には、種類・品質の不適合に関する「不適合を知ってから1年以内に通知する」という期間制限は適用されません。請求には消滅時効の一般原則が適用され、原則として不適合を知った時から5年、または目的物の引渡し時から10年で時効にかかります(民法166条1項)。
