違法な通達によって損害を受けた場合、国家賠償請求できる?
一定の要件を満たす場合、違法な通達や、それに基づく行政上の取扱いによって生じた損害について、国や公共団体に国家賠償を請求できる可能性があります。
通達は、法規としての性質を有するものではありません。しかし、通達の内容が法律の解釈を誤っており、その通達に従った取扱いによって国民に損害が生じた場合には、国家賠償法上の「違法」と評価されることがあります。
もっとも、通達の内容に問題があることだけで、直ちに賠償が認められるわけではありません。
国家賠償法1条で請求が認められるための要件
国家賠償法1条1項では、国または公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えたとき、国や公共団体が賠償責任を負うと定めています。
公権力の行使に当たること
「公権力の行使」は、行政処分のような権力的作用に限られません。判例・通説では、純粋な私経済作用や国家賠償法2条が適用される事項以外の行政作用も、「公権力の行使」に含まれると考えられています。
通達を作成・発出し、それに従った行政上の取扱いによって損害が生じた場合も、国家賠償法1条の対象となり得ます。なお、国家賠償法1条では、原則として公務員個人ではなく、国または公共団体が賠償責任を負います。
故意または過失によって違法に損害を加えたこと
国家賠償法1条の責任が成立するためには、公務員が「故意又は過失によって」「違法に」損害を加えたことが必要です。「故意又は過失」は主観的要件、「違法に」は客観的な法規範違反という客観的要件であり、原則として両方を満たす必要があります。
法令解釈に誤りがあったとしても、直ちに国家賠償法上違法となるわけではありません。公務員が職務上通常尽くすべき注意を怠り、誤った通達を発出し、または誤った取扱いを継続したと評価できることが必要です。
損害が発生していること
さらに、通達やそれに基づく取扱いによって、他人に損害が生じていることが必要です。
違法な通達について判断した最高裁判例
最判平成19年11月1日―通達に基づく給付打切りと国家賠償責任
この事件では、国外へ居住地を移した被爆者について、健康管理手当などの受給権を失わせる取扱いを定めた通達が問題となりました。国の担当者は、原爆医療法および原爆特別措置法の解釈を誤った通達を作成・発出し、これらの法律を統合する形で被爆者援護法が制定された後も、平成15年3月までその通達に従った取扱いを継続していました。
最高裁は、法令解釈を誤った通達を作成・発出し、その後も誤った取扱いを続けたことについて、職務上通常尽くすべき注意義務に違反すると判断しました。担当者には過失があり、国家賠償法1条1項の適用上、違法な行為に当たるとしています。
この判例から、通達が法規としての性質を有しない場合でも、その内容や通達に従った取扱いが国家賠償法上違法となり得ることが分かります。
国家賠償請求を検討するときの確認事項
- 通達の内容と根拠となる法律
- 通達に基づいて行われた行政上の取扱い
- 法令解釈の誤りや、職務上通常尽くすべき注意義務違反の有無
- 発生した損害の内容
違法な通達による不利益があっても、国家賠償法1条の要件を満たさなければ請求は認められません。通達の内容や、それに従った取扱いが違法に損害を加えたものといえるかを検討することが重要です。
