結論からいうと、住民訴訟中であっても、地方公共団体の議会が損害賠償請求権や不当利得返還請求権を放棄することは、直ちに禁止されません。もっとも、放棄が不合理で、議会に認められた裁量権の範囲を逸脱・濫用する場合には、議決が違法となり、放棄も無効になります。
住民訴訟で問題になる請求権
住民訴訟のうち、いわゆる4号請求は、当該職員や当該行為または怠る事実に係る相手方に対して損害賠償請求または不当利得返還請求をするよう、地方公共団体の執行機関や職員に求めるものです。
そのため、訴訟中に議会が請求権を放棄すると、住民訴訟の対象となっている請求権を行使しないことになります。そこで、住民訴訟の途中で行われた放棄が適法かどうかが問題になります。
神戸市事件判決の判断基準
最高裁平成24年4月20日判決(神戸市事件)は、住民訴訟の対象となっている請求権について、議会による放棄を一律に無効とはしませんでした。つまり、「住民訴訟中だから放棄できない」とは限らないということです。
一方で、議会が自由に放棄できるわけでもありません。放棄が、地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営を確保するという地方自治法の趣旨に照らして不合理であれば、裁量権の逸脱・濫用となります。その場合、放棄の議決は違法で、請求権の放棄も無効です。
適法性は個別事情を総合的に判断する
裁判所は、主に次の事情を組み合わせて判断します。
- 請求権の発生原因となった財務会計行為等の性質や内容
- 行為の原因・経緯と地方公共団体への影響
- 放棄を決めた議決の趣旨・経緯
- 請求権を放棄または行使することによる影響
- 住民訴訟の係属の有無や、それまでの経緯
- 議決後の事情
実際の適法性は、これらの事情その他の諸般の事情を総合して判断されます。
まとめ
住民訴訟中の損害賠償請求権の放棄は、議会が議決しただけで当然に無効になるわけではありません。しかし、放棄が不合理で議会の裁量権の逸脱・濫用に当たれば、議決は違法となり、放棄も無効になります。神戸市事件判決は、一律禁止でも無制限の自由でもなく、具体的な事情を総合考慮する判断枠組みを示したものです。
