国家賠償法1条は、公務員が公権力を行使する中で、故意または過失により違法に他人へ損害を与えた場合、国または公共団体が賠償責任を負うと定めています。
「公務員」と聞くと、国や自治体の職員だけが対象と思われがちです。しかし、行政事務が民間に委託されていても、担当した行為の性質によっては、国家賠償法1条が適用されることがあります。
国家賠償法1条で問題になる「国又は公共団体」「公務員」
国家賠償法1条の基本的な仕組み
国家賠償法1条1項は、国または公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人へ損害を加えたとき、国または公共団体が賠償すると定めています。
責任が認められるかは、主に次の点から判断されます。
- 行為が「公権力の行使」に当たるか
- 行為者が国家賠償法上の「公務員」に当たるか
- 職務を行うについてされた行為か
- 故意または過失があるか
- 違法な行為によって損害が生じたか
「公権力の行使」は広く解釈される
公権力の行使には、行政処分のような権力的行為だけでなく、行政指導や公立学校での教育活動など、行政作用として行われる活動も含まれる場合があります。
ただし、純粋な私経済上の活動や、施設の設置・管理の不備を原因とする損害は、原則として国家賠償法1条ではなく、同法2条が問題となります。
国家賠償法の「国又は公共団体」とは
国や地方公共団体が基本的な責任主体
「国又は公共団体」には、国のほか、都道府県、市区町村などの地方公共団体が含まれます。どの団体が責任を負うかは、問題となった公権力を行使する権限や組織が、どの団体に属していたかを踏まえて判断されます。
したがって、担当者が国の職員か自治体の職員かという形式だけでなく、実際にどの団体の権限に基づく職務だったのかが重要です。
国や地方公共団体以外の団体が含まれる場合
公権力の行使の主体となっている団体として、独立行政法人や弁護士会などが含まれる場合もあります。名称だけで決まるのではなく、実際にどの団体が公権力の行使に関わり、権限がどこに帰属していたのかを確認します。
賠償するのは原則として団体
被害者に対して賠償責任を負うのは、原則として公務員個人ではなく、国または公共団体です。公務員に故意または重大な過失があった場合には、賠償した国や公共団体から本人への求償が問題となることがあります。
国家賠償法の「公務員」とは?民間委託先も含まれる場合
身分上の公務員だけが対象ではない
国家賠償法1条の「公務員」は、公務員法上の身分を持つ職員に限られません。実際の身分が民間人であっても、公権力の行使に当たる職務を担当していれば、同条の「公務員」と扱われる可能性があります。
民間委託先が対象となる条件
民間事業者や民間法人への委託がある場合、次の条件を満たすと国家賠償法1条の対象となり得ます。
- 委託された業務が公権力の行使に当たること
- 行為者が、その公権力の行使に当たる職務を担当していたこと
- 職務上の行為に故意または過失があり、違法な損害が発生したこと
つまり、民間への委託だけで国家賠償法の対象外になるわけではありません。一方、民間事業者が行った業務のすべてが公権力の行使になるわけでもなく、通常の民間サービスや私的な契約行為まで当然に含まれるわけではありません。対象となるかは、委託業務の具体的な内容と、誰の権限に基づく行為だったかによって判断されます。
実際に、都道府県の措置に基づき社会福祉法人が運営する児童養護施設の職員による養育・監護行為について、公権力の行使に当たるとされた例があります。また、建築主事と同様の建築確認を行う指定確認検査機関の確認処分について、地方公共団体が国家賠償責任を負うとされた例もあります。
「職務を行うについて」の判断
公務員が実際に権限の範囲内で行為をしたかどうかだけでなく、外部から見て職務を行っているように見える行為であれば、「職務を行うについて」に当たると判断される場合があります。
なお、民間の被用者による行為であっても、公権力の行使に当たるとして国または公共団体が国家賠償法1条に基づく責任を負う場合には、被用者個人の民法709条に基づく責任や、使用者の民法715条に基づく責任は認められないとされています。
