衆議院議員の選挙では、選挙区ごとの人口に対して議員定数の配分が異なるため、選挙区間で「1票の価値」に差が生じることがあります。この差が憲法上許される範囲を超えていないかを争うのが、衆議院議員の定数不均衡訴訟です。
衆議院議員の定数不均衡訴訟とは
選挙区によって1票の価値に差が生じる問題
「議員1人当たりの選挙人数」とは、1人の議員を選ぶために必要な選挙人数です。この数が選挙区によって大きく異なると、少ない有権者数で議員を選べる地域と、より多くの票を必要とする地域が生じます。
その結果、各票が選挙結果に与える影響力に差が生まれます。これは、憲法14条1項の「法の下の平等」から導かれる、投票価値の平等との関係で問題になります。
定数配分や区割りの違憲性を争う訴訟
選挙人は、衆議院議員選挙の定数配分や選挙区割りが憲法に違反すると主張し、選挙の効力を争う訴訟を提起できます。
もっとも、投票価値が数字上完全に同じでなければならないわけではありません。国会には、地域の事情や代表を公正かつ効果的に国政へ反映することなどを考慮して、選挙制度を設計する裁量が認められています。
「違憲状態」と「違憲」はどう違うのか
違憲状態とは
違憲状態とは、投票価値の不平等が、憲法上看過できない程度に達している状態です。ただし、人口移動によって較差が生じた場合、問題が生じた時点で直ちに定数配分規定が違憲になるとは限りません。
選挙制度の改正には、国会での検討や法改正などが必要です。そのため、国会には是正のための合理的期間が認められます。
合理的期間を過ぎても是正されないと「違憲」になる
違憲状態となった後も、国会が合理的期間内に是正しなかった場合、定数配分規定が違憲と判断されます。判断では、主に次の事情が考慮されます。
- 較差の大きさ
- 不平等が続いた期間
- 人口移動の状況
- 国会が是正措置を取ったか
- 制度見直しに向けた具体的な取組みがあったか
したがって、最高裁が「違憲状態」と述べても、それだけで直ちに「違憲判決」になるわけではありません。
違憲でも選挙が無効になるとは限らない
定数配分規定が違憲と判断されても、選挙そのものを無効にしない場合があります。選挙を無効にすると、議員の資格や選挙後の法律関係に大きな混乱が生じるためです。そのため、選挙の違法性だけを宣言し、選挙の効力は維持する判断が示されてきました。
最高裁判例の流れ
- 昭和51年判決:最大較差約5倍の選挙について、合理的期間内に是正されなかったとして違憲と判断。ただし選挙は無効にしませんでした。
- 昭和58年判決:定数配分の改正により、以前の不平等は一応解消されたとして合憲と判断しました。
- 昭和60年判決:最大較差約4.4倍について違憲と判断しましたが、選挙は無効にしませんでした。
- 平成11年判決:小選挙区比例代表並立制の導入時の最大較差約2.3倍は違憲ではないとしました。
- 平成23年・平成25年・平成27年判決:違憲状態を認めつつ、合理的期間内の是正がなかったとはいえないとして、直ちに違憲とはしませんでした。
- 平成30年判決:最大較差1対1.979の選挙について、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にはなかったとして、合憲と判断しました。
- 令和5年判決:令和3年衆議院議員総選挙の最大較差1対2.079について、合憲と判断しました。
このように、衆議院の定数不均衡訴訟では、較差の数字だけでなく、国会が是正に取り組んだか、そして合理的期間を経過したかが重要になります。
