国家賠償法1条1項は、国や公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、「その職務を行うについて」故意または過失によって違法に他人へ損害を与えたとき、国や公共団体が賠償責任を負うと定めています。
問題となるのは、公務員の行為が本当に職務だったのか、それとも私的な行為だったのかが外部から分かりにくい場合です。ここで重要になるのが外形標準説です。
国家賠償法の「職務を行うについて」とは?
公務員の行為が職務と関係していれば対象になる
「職務を行うについて」とは、公務員が実際にその権限の中で職務を行っていたかどうかではなく、行為を外部から見たとき、職務を行っているように見える場合を指します。そのため、権限の逸脱や職務の悪用があっても、国家賠償法1条1項の対象となる可能性があります。
国家賠償責任の一要件
もっとも、「職務を行うについて」に当たるだけで、直ちに賠償責任が成立するわけではありません。次の要件を満たす必要があります。
- 国または公共団体の公権力の行使に当たる公務員の行為であること
- 公務員に故意または過失があること
- 行為が違法であること
- 他人に損害が生じていること
外形標準説の意味と判断方法
外形標準説とは
外形標準説とは、公務員が実際に権限を持っていたか、本人が職務として行っていたかではなく、行為を客観的に見て職務執行に見えるかどうかを基準に判断する考え方です。公務員がどのような職務権限を持っているかを国民が知ることは難しいため、外部から分かる行為の外観が重視されます。
判断のポイント
公務員が職務を行っているように見えるかどうかを、行為の外形から客観的に判断します。したがって、非番中や管轄区域外の行為でも、外形上は職務行為に見える場合があります。
一方、職務執行の外形がない単なる私的な行為まで、当然に国家賠償法の対象となるわけではありません。
外形標準説が適用される場合
職務を装った違法行為
公務員が職務を行っているように見せて違法行為をした場合でも、客観的に職務執行の外形があれば、所属する国や公共団体が責任を負うことがあります。
判例が示した考え方
最高裁判所は、非番のA県の警察官が制服を着用し、B県で私人に対して職務質問を装って金品を奪い、騒がれたため射殺した事案について、客観的に職務執行の外形を備える行為によって損害を加えたとして、所属するA県の国家賠償責任を認めました(最判昭31・11・30)。
この判断から、非番であること、管轄区域外であること、公務員本人が職務を装っていたことだけでは、直ちに「職務を行うについて」に当たらないとはいえません。ただし、故意・過失、違法性、損害などの要件も別途必要です。
まとめ
国家賠償法の「職務を行うについて」とは、公務員が実際に権限の範囲内で職務を行っていたかどうかではなく、外部から客観的に職務を行っているように見える場合を含みます。外形標準説では、実際の権限や本人の真意よりも、行為の外観を重視します。そのため、非番中や管轄区域外、職務を装った行為でも対象となり得ますが、国家賠償責任の成立には、ほかの法律上の要件も必要です。
