国家賠償法1条1項における「故意又は過失」「違法に」の位置づけ
国家賠償法1条1項の条文と責任成立の基本
国家賠償法1条1項は、国または公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人へ損害を加えたとき、国または公共団体が賠償責任を負うと定めています。
責任が成立するには、原則として次の要件が必要です。
- 公権力の行使に当たること
- 公務員が職務を行うについて行為をしたこと
- 故意または過失があること
- 行為が違法であること
- 他人に損害が発生したこと
ここでは、特に「故意又は過失」と「違法に」の意味を確認します。
「故意又は過失」と「違法に」は別の要件
「故意又は過失」は、公務員の主観的要件です。一方、「違法に」は、客観的な法規範に違反したかという客観的要件です。
したがって、原則として、故意または過失と違法性の双方を満たす必要があります。
国家賠償法1条の「故意又は過失」とは
故意・過失は主観的要件
「故意又は過失」は、公務員の主観的要件です。過失については、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったかどうかが問題となります。
判例上も、違法な通達に基づく取扱いを長期間続けた事案、課税要件を十分に確認せず更正した事案、建築確認で申請書類の明らかな不整合を見落とした事案、公立学校の教育活動で危険防止措置を怠った事案などで、職務上の注意義務違反が問題となっています。
担当者や行為を特定できない場合
一連の職務行為の中に、故意または過失による違法行為があったと認められ、その行為がなければ損害が生じなかったといえる場合、具体的な担当者や加害行為を特定できないことだけで、国や公共団体が責任を免れるとは限りません。
1条1項と1条2項の違い
1条1項は、被害者に対する国・公共団体の賠償責任について、故意または過失を要件とします。これに対し、1条2項で国・公共団体が公務員へ求償できるのは、公務員に故意または重大な過失がある場合です。両者を混同してはいけません。
国家賠償法1条の「違法に」とは
職務上の法的義務や注意義務に違反したこと
「違法に」とは、単に行政判断の結果が不利益だったことや、後から判断が誤りと分かったことを意味しません。公務員が個別の国民との関係で負う法的義務や注意義務に違反したかが重要です。
裁量を伴う行為は、結果だけで違法とはならない
たとえば、所得金額を過大に認定した更正でも、直ちに違法となるわけではありません。必要な資料収集や確認を怠り、漫然と更正した事情が必要です。
また、後に無罪判決が確定しても、直ちに検察官の公訴提起が違法になるわけではありません。提起時の証拠を前提に、合理的に有罪の嫌疑が認められたかで判断されます。裁判官の裁判も、上訴で是正されるべき誤りがあるだけでは足りず、権限の趣旨に明らかに反する特別な事情が必要です。経済政策についても、判断の誤りだけで国家賠償法上違法となるわけではありません。
行政の不作為が違法となる場合
行政機関が規制権限を行使しなかった場合も、直ちに違法とはいえません。法の趣旨・目的や当時の知見などから、権限を行使しないことが著しく合理性を欠くと評価される場合に、違法となり得ます。
このように、国家賠償法1条では、損害の発生だけでなく、職務上の義務に反する違法行為と、故意または過失の双方が必要です。
