思想及び良心の自由とは、国家から特定の考えを持つよう強制されたり、ある思想・信条を理由に不利益を受けたりしないための権利です。日本国憲法19条は、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と定めています。
思想及び良心の自由とは
憲法19条が保障する内面的な精神活動の自由
憲法上、「思想」と「良心」を厳密に分ける必要はないとするのが通説・判例です。国家観、世界観、人生観、主義、主張など、個人の人格に関わる内面的な精神作用を広く含みます。
そのため、内心にとどまる限り、どのような考えを持つかは個人の自由です。国家が特定の思想を禁止したり、考えを変更するよう強制したりすることはできません。これは、過去に思想そのものが国家によって統制された経験を踏まえ、表現の自由や信教の自由とは別に保障されたものです。
思想及び良心の自由の保障内容
内心の自由の絶対性
どのような世界観や人生観、政治的な主張を持つかは、内心の領域にある限り絶対的に自由です。ただし、外部に現れた行為については、その内容に応じて一定の判断や規制が問題になることがあります。
沈黙の自由
国家は、個人に思想や信条を告白させることもできません。自分の考えを公表するか、明らかにしないかは本人が決められます。
思想・信条を理由とする不利益的取扱いの禁止
国家が、特定の思想・信条を持つことだけを理由に不利益を与えることは許されません。一方、企業と労働者のような私人間では、個人の人権だけでなく、私的自治や社会的許容性との調整が必要です。そのため、私人による取扱いが直ちに憲法19条違反となるわけではありません。
外部的な行為や記録との区別
政治活動などの外部的行為が記録されたからといって、直ちに思想・信条そのものを侵害したことにはなりません。行為から思想・信条を知ることができるか、思想・信条自体を不利益な判断材料にしたかが重要です。
思想及び良心の自由に関する主な判例
謝罪広告事件(最大判昭31・7・4)
名誉毀損をした者に新聞で謝罪広告を掲載させることが、良心の自由を侵害するかが争われました。最高裁は、事実の真相を告白し、陳謝の意を示す程度の謝罪広告であれば、憲法19条に違反しないと判断しました。ただし、本心に反して事の是非善悪の判断を表現させたり、謝罪・陳謝という倫理的な意思の公表を強制したりすることは良心の自由を侵害するとの反対意見もありました。
三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)
企業が、特定の思想・信条を理由に採用を拒否した事件です。最高裁は、私人間では私的自治や人権侵害の調整が必要であり、企業が特定の思想・信条を有する労働者の採用を拒否することを当然に違法とはいえないとしました。国家による不利益な取扱いと、私人間の関係では判断の枠組みが異なります。
麹町中学校内申書事件(最判昭63・7・15)
政治活動に関する外部的行為が内申書に記載されたことが問題となりました。最高裁は、記載されたのは思想・信条そのものではなく、その記載に係る外部的行為から思想・信条を知ることもできないとして、憲法19条違反ではないと判断しました。
まとめ:思想及び良心の自由のポイント
思想及び良心の自由は、憲法19条が保障する内面的な精神活動の自由です。保障の中心は、次の3点です。
- 内心の自由の絶対性
- 内心を告白させられない沈黙の自由
- 思想・信条を理由とする不利益的取扱いの禁止
ただし、外部的行為の評価や私人間の法律関係では、行為の内容や私的自治との調整が必要になります。判例を理解する際は、内心そのものへの介入か、外部に現れた行為への対応かを区別することが重要です。
