契約どおりの履行ができなくなった場合、債権者は履行に代わる損害賠償(填補賠償)を請求できることがあります。ただし、履行不能になったという事実だけで、必ず請求できるわけではありません。民法上、主に3つの要件を満たす必要があります。
履行不能とは?原始的不能と後発的不能の違い
履行不能とは、債務の履行が不可能であることです。履行期を過ぎただけで、なお履行できる場合は「履行遅滞」であり、履行不能とは区別されます。
契約成立時にはすでに履行できなかった場合を原始的不能といいます(民法412条の2第2項)。一方、契約時には履行できたものの、その後の事情によって履行できなくなった場合が後発的不能です。たとえば、引き渡す予定だった特定の建物が契約後の火災で焼失した場合は、後発的な物理的不能にあたります。
「不能」には、物理的不能だけでなく、社会的不能や、法律上の理由で実現できない法律的不能も含まれます。たとえば、不動産の二重譲渡において、第二の買主が本登記を備えた場合、第一の買主にとって法律的不能となります。ただし、第二の買主が仮登記を備えただけでは、法律的不能とはなりません。
履行不能による損害賠償請求の3つの要件
1.債務の履行が不能であること
まず、債務の内容を実現できないことが必要です。原始的不能と後発的不能のいずれも対象となり、物理的・社会的・法律的不能にあたるかを確認します。履行可能なのに期限を過ぎただけなら、履行遅滞として整理します。
2.債務者に帰責事由があること
履行不能について、債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)が必要です。従業員などの履行補助者の帰責性も、債務者の責任を判断する際の考慮要素となります。
ただし、債務者が履行遅滞の責任を負っている間に、当事者双方に責任のない事情で履行不能となった場合は例外です。この場合、履行不能は債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなされます(民法413条の2第1項)。そのため、履行遅滞に陥った後で当事者双方の責めに帰すことができない事由が発生しても、損害賠償責任を負うことがあります。
3.履行不能が違法であること
履行不能となった場合でも、緊急避難が成立するときは責任を負いません。緊急避難とは、他人の物から生じた危難を避けるため、その物を損壊する場合をいいます。したがって、不能の事実だけでなく、緊急避難が成立する事情がないかも確認する必要があります。
損害賠償として請求できる範囲
履行不能の場合は、履行そのものに代わる填補賠償を請求できます。損害賠償は、原則として金銭で支払われます(民法417条)。請求する側は、履行不能によって生じた損害の内容と金額を証明する必要があります。
- 通常損害:債務不履行から通常生じる損害。原則として請求できます(民法416条1項)。
- 特別損害:特別な事情によって生じた損害。債務者がその事情を予見すべきであった場合に限り請求できます(同条2項)。
特別損害では、損害そのものではなく、その損害を生じさせた特別な事情を債務者が予見すべきであったかが問題となります。
まとめ
履行不能による損害賠償請求には、①債務の履行が不能であること、②債務者に帰責事由があること、③履行不能が違法であること、という3つの要件が必要です。契約時から不能だった原始的不能も、契約後に不能となった後発的不能も検討対象となります。請求にあたっては、不能の原因、債務者の責任、発生した損害とその金額を整理することが重要です。
