医療過誤における医師の過失判断とは?医療水準と注意義務を解説

医療過誤で医師の責任が認められるには、治療後の結果が悪かったというだけでは足りません。診療当時の医療水準を基準として、医師が必要な注意義務を果たしたか、さらに医師の行為と患者の損害との間に因果関係があるかが検討されます。

医療過誤で医師の過失が認められるための基本的な考え方

医師の過失だけで直ちに損害賠償責任が成立するわけではない

民法709条は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害し、損害を与えた場合の賠償責任を定めています。不法行為が成立するには、一般に次の要件を満たす必要があります。

  • 患者に損害が発生していること
  • 医師に故意または過失があること
  • 医師に責任能力があること
  • 違法な行為であること
  • 医師の行為と損害との間に因果関係があること

したがって、病状が改善しなかったことや、手術後に後遺症が残ったことだけで、直ちに過失が認められるわけではありません。医師が当時求められていた注意義務に違反したかを、診療時点の医療水準に照らして判断します。

過失の判断では「診療当時の医療水準」が基準になる

医師は、生命や健康を扱う仕事の性質上、危険を避けるために必要な注意を払う義務を負います。ただし、基準となるのは抽象的な「最善の医療」ではなく、原則として、診療当時の臨床医学の実践における医療水準です。

そのため、当時の状況で必要な検査、診断、治療などを行うべきだったのに怠ったかどうかが、過失判断の中心となります。

医療水準はどのように判断されるのか

医療水準は全国一律の基準ではない

医療水準は、すべての医師や医療機関に同じように適用される絶対的な基準ではありません。医師の専門分野、所属する医療機関の性格、地域の医療環境などを踏まえて、個別に判断されます。

したがって、専門的な設備を備えた医療機関と、地域の診療所とで、同じ知識や対応が常に求められるとは限りません。

医療水準は医療慣行と必ずしも一致しない

実際に多くの医師が行っている医療慣行に従っていたとしても、それだけで注意義務を果たしたとは限りません。医療慣行が存在することと、医療水準上必要な対応であることは別の問題です。

新しい治療法が医療水準に含まれるか

新しい治療法については、その知見が類似する医療機関に相当程度普及していたか、当該医療機関にその知識を備えることを期待できるかが考慮されます。医療機関の性格や地域の医療環境も含めて、当時その治療法を前提に診療すべきだったかが判断されます。

医療水準に基づく医師の注意義務と例外

注意義務違反があるかを具体的な診療行為ごとに判断する

過失の有無は、検査、診断、治療、適切な医療機関への転送など、診療行為ごとに確認されます。たとえば、開業医が高度な医療を受けられる機関へ適時に患者を転送すべき状況で転送を怠り、転送されていれば重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性が証明できる場合には、その可能性を侵害されたことによる損害について不法行為責任を負います。

未確立の治療法については常に説明義務が生じるわけではない

実施予定の治療法が確立している一方、別の治療法がまだ医療水準として確立していない場合、医師がその治療法を常に説明しなければならないわけではありません。

ただし、その治療法が少なからぬ医療機関で実施され、相当数の実施例があり、実施した医師から積極的に評価されている場合で、患者に適応の可能性があり、患者が自分に適応できるか、実施可能かについて強い関心を持っていることを医師が知っていたときは、例外的に説明義務が認められることがあります。この場合、医師が知る範囲で、治療法の内容、適応の可能性や受けた場合の利害得失、実施医療機関の名称や所在などを説明すべきとされます。