執行不停止の原則とは?取消訴訟を提起しても処分は止まらない
執行不停止の原則の意味
執行不停止の原則とは、行政処分の取消訴訟を提起しても、それだけでは処分が自動的に止まらないというルールです。行政事件訴訟法25条1項は、訴訟を起こしても、原則として次の事項は妨げられないと定めています。
- 処分の効力
- 処分の執行
- 処分を前提とする手続の続行
つまり、取消訴訟を提起しただけでは、行政処分の効果や、その内容を実現する行為は止まりません。行政の安定を図るため、訴訟の提起だけで処分の効力などが停止する仕組みにはなっていません。
なぜ取消訴訟を提起しても処分が止まらないのか
取消訴訟は、処分が違法かどうかを裁判所に判断してもらう手続です。しかし、訴訟を提起した時点では、処分が違法だと確定したわけではありません。そのため、処分を止める必要がある場合は、取消訴訟において執行停止を申し立てる必要があります。
処分を止めるには「執行停止」を申し立てる
執行停止は裁判所への申立てが必要
執行停止は、取消訴訟を提起した原告の申立てに基づいて、裁判所が判断する制度です。裁判所が職権で執行停止を決めることはできません。
行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為については、民事保全法に基づく仮処分を利用して止めることはできません。その代わりに、行政事件訴訟法上の執行停止を利用します。
執行停止の対象
- 処分の効力の停止:処分が持つ法的な効果そのものを止めること
- 処分の執行の停止:処分の内容を実現する行為を止めること
- 手続の続行の停止:処分を前提として進められる手続を止めること
処分の執行や手続の続行を止めれば目的を達成できる場合、処分の効力そのものを停止することはできません。
執行停止が認められるための4つの要件
申立人側が満たす必要がある要件
1.取消訴訟が適法に提起されていること
執行停止は、適法な取消訴訟が提起されていることが前提です。訴訟が適法に成立していなければ、執行停止も認められません。
2.重大な損害を避けるため、緊急の必要があること
重大な損害を避けるため、処分を急いで止める必要があることが求められます。
重大な損害に当たるかは、損害を後から回復することの難しさ、損害の性質や程度、処分の内容や性質などを考慮して判断されます。これらの事情は、執行停止を求める側が疎明します。
行政側が主張・疎明する消極要件
3.公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと
執行停止によって公共の福祉に重大な影響が生じるおそれがある場合は、執行停止は認められません。この点は、申立てを受けた行政主体側が疎明します。
4.本案について理由がないとみえるときでないこと
取消訴訟の本案について、理由がないとみえる場合は、執行停止は認められません。この点も行政主体側が疎明します。
執行停止の決定方法と不服申立て
執行停止の決定は、疎明に基づいて行われ、口頭弁論を経ないで行うこともできます。ただし、裁判所は、あらかじめ当事者の意見を聞かなければなりません。
執行停止の申立てに対する決定には即時抗告ができますが、即時抗告をしても、その決定の執行を停止する効力はありません。
執行停止が認められても、後から取り消される場合がある
事情の変更による取消し
執行停止の決定が確定した後に、停止の理由がなくなったり、事情が変わったりした場合、相手方の申立てにより、裁判所が執行停止を取り消すことがあります。
内閣総理大臣の異議
内閣総理大臣は、理由を示して、執行停止の決定前または決定後に異議を述べることができます。決定前に異議が述べられた場合、裁判所は執行停止をすることができません。決定後に異議が述べられた場合は、裁判所はその執行停止を取り消さなければなりません。
まとめ|取消訴訟だけでは処分は止まらず、執行停止の申立てが必要
取消訴訟を提起しても、処分の効力・執行・手続の続行は原則として止まりません。これが行政事件訴訟法上の執行不停止の原則です。
処分を止めるには、裁判所に執行停止を申し立てる必要があります。そのためには、適法な取消訴訟、重大な損害を避ける緊急の必要性、公共の福祉への重大な影響がないこと、本案について理由がないとみえるときでないことが必要です。
