行政指導は、相手方に任意の協力を求めるものです。ただし、行政指導に従わなければ行政サービスを受けられないようにするなど、実際には拒否できない状態にすると、違法となる可能性があります。
ここでは、教育施設負担金の納付を事実上強制した事例をもとに、行政指導が違法となる場合と、国家賠償法上の責任が認められるための要件を説明します。
行政指導が違法になる基本的な考え方
行政指導は本来、任意の協力を求めるもの
行政指導によって金銭の納付などを求める場合でも、相手方が任意に応じることが前提となります。行政サービスの利用拒否などを背景として、納付しなければ不利益を受けると相手方に考えさせ、実際には従うしかない状況を作れば、任意に寄付金の納付を求める行政指導の限度を超えることがあります。
行政指導の違法性を判断するポイント
違法かどうかは、指導要綱の文言だけでなく、実際の運用や担当者の対応、相手方が置かれた状況などを踏まえて判断されます。
- 納付しなければ、水道の給水契約の締結や下水道の使用を拒絶されると考えさせる状況があったか
- その不利益により、事業の目的を達成することが事実上不可能となる状況だったか
- 担当者の対応から、納付しなければ不利益を受けると認識させられたか
- 負担金の減免などの求めを「前例がない」として拒絶したか
行政指導の目的が住民の生活環境を守ることであり、多くの住民の支持を受けていたとしても、納付を事実上強制すれば、違法な公権力の行使と評価されることがあります。
納付を事実上強制した事例
開発指導要綱に基づく教育施設負担金の事例
武蔵野市は、開発指導要綱に基づき、マンションを建築しようとする事業者に教育施設負担金の納付を求めました。この負担金は、法律上の義務ではなく、行政指導として納付を求めるものでした。
しかし、教育施設負担金を納付しなければ、水道の給水契約の締結を拒否するなどの措置が講じられることを前提として、納付が求められていました。水道の給水契約を締結できなければ、マンション建築の目的を達成することは事実上不可能となります。事業者が教育施設負担金の減免などを求めても、担当者は「前例がない」として拒絶しました。
なぜ違法な行政指導と評価されたのか
教育施設負担金の納付は、本来、任意に委ねられるべきでした。それにもかかわらず、水道の給水契約の締結や下水道の使用を拒絶されることを背景に納付を求めたことで、事業者は行政指導に従うことを余儀なくされました。
最高裁判所は、このような行為について、本来任意に寄付金の納付を求めるべき行政指導の限度を超えるものであり、違法な公権力の行使であると判断しました(最判平5・2・18)。
違法な行政指導による国家賠償が認められる条件
行政指導も「公権力の行使」に含まれ得る
国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときの賠償責任を定めています。
ここでいう「公権力の行使」は、行政行為などの権力的作用だけに限られません。判例・通説上、行政指導のような非権力作用も、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に含まれ得ます。
国家賠償法1条1項で確認する要件
行政指導を理由に国家賠償を求める場合は、主に次の点が問題となります。
- 国又は公共団体の公権力の行使に当たること
- 公務員がその職務を行うについて実施したこと
- 行政指導が違法であること
- 公務員に故意又は過失があること
- 他人に損害が発生していること
したがって、行政指導に従わされたという事情だけで、直ちに国家賠償が認められるわけではありません。行政指導が違法であることに加え、故意又は過失によって損害が発生したことなど、国家賠償法1条1項の要件を満たす必要があります。
