裁決の取消しの訴えでも執行停止できる
結論として、裁決の取消しの訴えでも、執行停止を申し立てることができます。行政事件訴訟法29条は、処分の取消しの訴えに関する執行停止の規定を、裁決の取消しの訴えにも準用すると定めています。
「準用」とは、ある訴訟に適用されるルールを、性質が許す範囲で別の訴訟にも適用することです。そのため、裁決取消訴訟にも、行政事件訴訟法25条などの執行停止に関するルールが適用されます。
ただし、裁決取消訴訟を提起しただけで、裁決の効力や執行、裁決を前提とする手続が自動的に止まるわけではありません。必要がある場合は、裁判所に執行停止を申し立てます。民事保全法上の仮処分ではなく、取消訴訟における執行停止を利用する点にも注意が必要です。
裁決取消訴訟で執行停止が認められる要件
原則は「執行不停止」
裁決の取消しの訴えを提起しても、裁決の効力、裁決に基づく執行、手続の続行は妨げられません。これを執行不停止の原則といいます。
執行停止を求めるには申立てが必要で、裁判所が職権だけで執行停止を決定することはできません。
執行停止の積極要件
申立人は、次の事情を示す必要があります。
- 裁決取消訴訟が適法に提起されていること
- 重大な損害を避けるため、緊急の必要があること
「重大な損害」かどうかは、損害を後から回復することがどの程度難しいかを中心に、損害の性質・程度、裁決の内容・性質などを考慮して判断されます。これらの積極要件は、執行停止を求める側が疎明します。疎明とは、裁判所が一応確からしいと判断できる程度に、資料などで示すことです。
執行停止を妨げる消極要件
次の事情がある場合、裁判所は執行停止をすることができません。
- 執行停止によって、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること
- 裁決取消訴訟の本案について、理由がないとみえるときであること
これらの事情については、申立てを受けた行政主体側が疎明します。
執行停止の対象と決定後のルール
裁判所が停止できる3つの対象
- 裁決の効力の停止:裁決の効力自体を止めること
- 裁決の執行の停止:裁決の内容を実現するための行為を止めること
- 手続の続行の停止:裁決を前提に進む手続を止めること
執行や手続の続行を止めれば目的を達成できる場合、裁決の効力そのものを停止することはできません。
申立てから決定までの手続
執行停止は疎明に基づいて判断され、口頭弁論を開かずに決定することもできます。ただし、裁判所は、あらかじめ当事者の意見を聴かなければなりません。
執行停止の申立てに対する決定には即時抗告ができます。ただし、即時抗告をしても、その決定の執行を止める効力はありません。
執行停止決定が出た後の取消しなど
執行停止決定が確定した後に、その理由がなくなった場合や、その他の事情が変わった場合には、相手方の申立てにより、裁判所が執行停止決定を取り消すことがあります。
また、内閣総理大臣は、執行停止の決定前後に、理由を付して異議を述べることができます。決定前に異議が述べられた場合、裁判所は執行停止をすることができず、決定後に異議が述べられた場合は、すでにされた執行停止決定を取り消さなければなりません。
内閣総理大臣が異議を述べた場合は、次の常会において国会に報告しなければなりません。
