前科の実名報道は違法?ノンフィクション『逆転』事件をわかりやすく解説

前科のある人について、氏名や前科の事実を報道や著作物で公表したからといって、直ちに違法になるわけではありません。

もっとも、前科は本人の名誉や信用に直接関わる情報です。そのため、前科がある人にも、前科などをみだりに公開されない法的利益が認められています。ノンフィクション『逆転』事件では、この利益と実名公表の理由をどのように比較するかが示されました。

前科の実名公表は一律に違法ではない

前科は「みだりに公開されない」利益の対象

前科などの情報は、社会からの評価や信用に直接関わる事項です。そのため、前科のある人であっても、前科をみだりに公開されてよいわけではありません。

憲法13条の趣旨からも、個人に関する情報をみだりに公表されない利益が問題となります。ただし、この利益があることだけで、前科に関する報道や著作物での公表がすべて禁止されるわけではありません。

違法性は公表の必要性などとの比較で決まる

実名公表が違法かどうかは、「前科を公表したか」という一点だけで判断されません。本人が前科を公表されない利益と、実名を使って公表する理由や必要性を具体的に比較して判断します。

本人側の利益が公表する理由を上回る場合には、公表によって受けた精神的苦痛について、損害賠償を請求できることがあります。

ノンフィクション『逆転』事件で示された判断基準

本人側について考慮される事情

最高裁判所は、主に次のような事情を考慮すると示しました。

  • 公表された人が、その後どのような生活を送っているか
  • 刑事事件そのものに歴史的・社会的な意義があるか
  • その人が事件でどの程度重要な立場にあったか
  • その人に社会的な活動や影響力があるか

著作物や公表する側について考慮される事情

本人側の事情だけでなく、実名を使用した著作物についても、次の点が検討されます。

  • 著作物が何を目的としているか
  • 著作物がどのような性格のものか
  • その著作物で実名を使うことにどのような意義があるか
  • 実名を使用する必要性があるか

本人の利益が優越すると損害賠償の対象になり得る

これらの事情を総合し、前科を公表されない本人の利益が、実名公表の理由よりも優越すると判断される場合があります。その場合、公表による精神的苦痛について損害賠償を求められる可能性があります。

一方、事件の歴史的・社会的意義や、著作物の目的から見て実名使用に必要性があると評価される場合には、前科を実名で公表したことだけで直ちに違法とはいえません。

『逆転』事件からわかる前科の実名公表のポイント

前科は、本人の名誉や信用に関わるため、みだりに公表されてよい情報ではありません。しかし、実名公表が常に違法となるわけでもありません。

本人のその後の生活状況、事件の社会的意義、本人の事件上の重要性、社会的活動や影響力に加え、著作物の目的や実名使用の必要性などを総合的に判断します。

まとめ

  • 前科の実名報道・公表は、一律に違法ではありません。
  • 前科のある人にも、前科などをみだりに公開されない法的利益があります。
  • 事件の社会的意義や著作物の目的、実名使用の必要性も考慮されます。
  • 本人の公表されない利益が公表の理由を上回る場合、損害賠償を請求できることがあります。

ノンフィクション『逆転』事件は、前科の実名公表について、本人のプライバシー上の利益と公表の意義を比較して違法性を判断する基準を示した判例です。