不法行為に基づく損害賠償請求権者は、その不法行為によって損害を被った人です。ただし、被害者が死亡した場合は、損害の種類によって請求できる人が異なります。
不法行為の損害賠償請求権者は「損害を被った人」
誰が請求権者になるかは、家族関係だけでなく、どの人に損害が発生したのかによって決まります。
たとえば、交通事故で被害者が入院した場合の入院費や、死亡した場合の葬儀費用は、実際にその費用を支払った人の損害です。そのため、被害者の家族が支払ったのであれば、原則として、その家族が費用について請求します。単に「被害者の家族である」というだけで、当然に請求できるわけではありません。
被害者が死亡した場合は損害の種類で請求権者が変わる
逸失利益は被害者本人が取得し、相続人が承継する
逸失利益とは、不法行為がなければ被害者が得られたはずの収入などをいいます。被害者が死亡した場合でも、この損害賠償請求権は、まず被害者本人に発生します。その後、死亡によって相続人が権利を引き継ぎます。
したがって、配偶者が逸失利益を請求する場合も、配偶者自身の固有の権利としてではなく、被害者から相続した権利として請求することになります(大審院大正15年2月16日判決)。
被害者本人の慰謝料請求権も相続される
精神的苦痛に対する慰謝料請求権も、損害が発生した時点で被害者本人が取得します。被害者が請求の意思を示さないまま死亡した場合でも、原則として相続人がその権利を行使できます。
ただし、被害者が慰謝料請求権を放棄したと考えられる特別な事情がある場合は別です。単に請求の意思を表明していなかったというだけで、相続人が請求できなくなるわけではありません(最大判昭和42年11月1日)。
「相続した損害」と「実際に支出した損害」を整理する
たとえば、交通事故で父親が死亡し、妻が葬儀費用を支払い、子どもと妻が相続人になる場合を考えます。このとき、葬儀費用は実際に支払った妻自身の損害です。一方、父親の逸失利益や慰謝料請求権は父親本人に発生し、相続人である妻や子どもが相続して請求します。
不法行為の損害賠償請求権者を判断するポイント
- 請求する損害が誰に発生したものかを確認する
- 被害者本人の損害なら、死亡後は相続人が権利を承継する
- 入院費や葬儀費用などを実際に支払った場合は、支出者が請求する
- 慰謝料請求の意思がなかっただけでは、請求権の放棄とはいえない
まとめ
不法行為の損害賠償請求権者は、原則として損害を被った人です。入院費や葬儀費用は実際に支出した人が請求し、逸失利益や被害者本人の慰謝料は、本人が取得した後、相続人が承継します。ただし、慰謝料請求権を放棄したといえる特別な事情がある場合は例外となります。
