差止めの訴えとは、行政庁がこれから行おうとしている処分や裁決をしないよう、裁判所に命じてもらうための訴訟です。処分がされた後に争う取消訴訟とは異なり、処分や裁決を事前に止める点に特徴があります。
もっとも、処分を受けるおそれがあるだけで利用できるわけではありません。「重大な損害を生ずるおそれ」や「損害を避けるために他に適当な方法がないこと」などの要件が必要です。
差止めの訴えとは
行政庁に処分や裁決をしないよう求める訴訟
差止めの訴えは、行政庁が一定の処分または裁決をすべきでないにもかかわらず、それをしようとしている場合に、裁判所から「その処分や裁決をしてはならない」と命じてもらう制度です。
差止めの訴えが認められるかは、法律上の要件を満たすかによって判断されます。
差止めの訴えの訴訟要件
重大な損害を生ずるおそれがあること
処分または裁決がされることによって、重大な損害が生じるおそれが必要です。単に不利益を受ける可能性があるというだけでは足りません。
「重大な損害」の意味
ここでいう重大な損害とは、処分後に取消訴訟を提起し、執行停止の決定を受けるなどしても、容易に救済できない損害をいいます。処分がされる前に差止めを命じなければ、救済が困難になることが必要です。
したがって、損害の金額や規模だけでなく、処分後の手続によって回復・救済できるかどうかが重要になります。最高裁判所も、平成24年2月9日判決および平成28年12月8日判決で、このような考え方を示しています。
損害を避けるために他に適当な方法がないこと
重大な損害のおそれがあっても、取消訴訟や執行停止など、別の適切な方法によって損害を避けられる場合には、差止めの訴えは認められません。
つまり、「重大な損害のおそれがあること」と「他に適当な方法がないこと」は、別々に確認される要件です。処分前に差し止めなければ救済が難しい場合に限って利用できる制度といえます。
仮の差止めとは
本案判決までの間、処分を一時的に止める制度
差止めの訴えを提起しても、判決までの間に処分がされれば、償うことのできない損害が生じることがあります。この場合、裁判所に申し立てて、判決まで一時的に処分や裁決をしないよう命じてもらう制度が「仮の差止め」です。
仮の差止めが認められる要件
- 処分または裁決による償うことのできない損害を避けるため、緊急の必要があること
- 本案の差止めの訴えに理由があるとみえること
- 仮の差止めによって公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと
仮の差止めは、差止めの訴えにおける仮の救済制度です。通常の差止めの要件と、仮の差止めの要件を混同しないことが大切です。
まとめ|差止めの訴えは「処分前の救済」が必要な場合に利用する
差止めの訴えは、行政庁がこれから行おうとする処分や裁決を止めるための訴訟です。提起には、重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるために他に適当な方法がないことが必要です。
処分後の取消訴訟や執行停止によって容易に救済できる場合は、重大な損害とは認められにくいといえます。処分または裁決による償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある場合には、仮の差止めを申し立てられることがあります。
