行政機関が規制権限を行使しなかった場合の国家賠償責任とは?

行政機関が規制権限を有しているにもかかわらず、それを行使しなかったために損害が発生することがあります。この場合、国家賠償法1条1項に基づく責任が問題となります。

もっとも、規制権限を行使しなかったというだけで、直ちに国家賠償責任が認められるわけではありません。判例は、法の趣旨・目的などに照らし、規制権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠く場合に、国家賠償法1条1項の適用上違法となると判断しています。

規制権限の不行使に関する判例

宅建業者に対する監督処分

免許を付与した宅建業者の不正な行為によって取引関係者が損害を被った場合について、判例は、知事などに監督処分権限が付与された趣旨・目的に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、取引関係者との関係で違法とはならないとしています(最判平元・11・24)。

医薬品の副作用

医薬品の副作用による被害については、監督権者が被害の発生を防止するために監督権限を行使しなかった場合であっても、不作為当時の医学的・薬学的知見の下で当該医薬品の有用性が否定されるまでに至っていないときは、被害を受けた者との関係で違法とはならないとされています(最判平7・6・23)。

じん肺被害

鉱山労働者が石炭などの粉じんを吸い込んでじん肺による健康被害を受けた事案では、一定の時点以降、通商産業大臣(当時)が鉱山保安法に基づき粉じん発生防止のための権限を行使しなかったことについて、法の趣旨・目的に照らし、著しく合理性を欠くものとして違法とされました(最判平16・4・27)。

水俣病被害

水俣病による健康被害については、一定の時点以降、健康被害の拡大防止のために、水質規制に関する当時の法律に基づく指定水域の指定などの規制権限を国が行使しなかったことが、法の趣旨・目的に照らし、著しく合理性を欠くものとして違法とされました(最判平16・10・15)。

石綿被害

石綿製品を製造する工場などの労働者が石綿粉じんにばく露した事案では、一定の時点以降、労働大臣(当時)が労働基準法に基づく省令制定権限を行使し、罰則をもって局所排気装置の設置を義務付けなかったことが、法の趣旨・目的に照らし、著しく合理性を欠くものとして違法とされました(最判平26・10・9)。

警察官による措置

飲食店内でナイフを使って人を脅していた者が警察署に連れてこられた後、帰宅途中にそのナイフで他人に危害を加えた事案では、警察官がナイフを提出させて一時保管する措置をとるべき状況に至っていたにもかかわらず、その措置をとらなかったことについて、国家賠償法1条1項の違法性が認められました(最判昭57・1・19)。

また、旧陸軍の砲弾類が海浜に打ち上げられ、たき火の最中に爆発して人身事故が生じた事案では、警察官が警察官職務執行法上の権限を適切に行使し、回収などの措置を講じて事故を防止すべき状況にあったにもかかわらず、その措置をとらなかったことについて、違法性が認められました(最判昭59・3・23)。

まとめ

規制権限の不行使については、権限を行使しなかったという事実だけでなく、規制権限が付与された法の趣旨・目的や、不行使が著しく合理性を欠くものであったかどうかが判断されます。また、医薬品の副作用の事案のように、不作為当時の医学的・薬学的知見などによって違法性が否定される場合もあります。