人権の私人間効力とは?直接適用説と間接適用説を解説

人権の私人間効力とは、憲法上の人権保障を、国や地方公共団体ではない私人同士の関係にも及ぼせるかという問題です。

憲法の人権規定は、もともと国家による権力行使から個人を守るものです。しかし、資本主義が高度に発達し、企業・私立学校・団体などが大きな影響力を持つようになると、私人間でも思想・信条や性別を理由とする不利益が問題になります。

もっとも、私人間の関係では、私的自治も尊重しなければなりません。そのため、国と個人の関係とは異なり、憲法上の人権規定を私人間にどのように適用するかが問題となります。

直接適用説と間接適用説

直接適用説

直接適用説は、憲法上の人権規定を私人間の関係にもそのまま適用する考え方です。たとえば、企業や学校の行為が憲法上の平等や思想・良心の自由に反するかを、憲法の規定そのものを基準に判断します。

間接適用説

間接適用説は、憲法を私人間に直接適用するのではなく、民法などの私法規定を解釈・適用する際に、憲法の人権保障の趣旨を反映させる考え方です。代表例は、民法90条の公序良俗や不法行為に関する規定です。

この考え方では、私人間の法律関係を直接規律するのは私法であり、憲法はその解釈を導く原則として働きます。私的自治を尊重しつつ、社会的許容性の限度を超える人権侵害を調整できるため、日本では間接適用説が通説・判例の立場です。

判例で見る私人間効力

三菱樹脂事件で最高裁は、憲法14条・19条は私人相互の関係を直接規律するものではないとしました。そのうえで、民法1条・90条や不法行為に関する規定を適切に適用し、私的自治と基本的な自由・平等の利益を調整できると判断しました。企業が特定の思想・信条を有することを理由に採用を拒否しても、それを直ちに違法とすることはできないとされています。

一方、日産自動車事件では、女子の定年年齢を男子より低く定めた就業規則について、性別だけによる不合理な差別として、民法90条により無効としました。

私人間に直接適用される場合

間接適用説が原則ですが、規定の性質上、私人間にも当然に適用されるものがあります。例として、次の規定が挙げられます。

  • 秘密投票の保障(憲法15条4項)
  • 奴隷的拘束・苦役からの自由(18条)
  • 両性の平等(24条)
  • 児童の酷使の禁止(27条3項)
  • 勤労者の団結権(28条)

つまり、人権の私人間効力は、憲法を私人間に一律に直接適用する問題ではありません。原則として私法の規定を通じて人権保障を実現し、私的自治と人権侵害の防止を調整する仕組みです。