公衆浴場距離制限事件とは?適正配置規制の合憲性を解説

公衆浴場距離制限事件は、公衆浴場の営業許可について、既存の公衆浴場との距離などを基準とする「適正配置規制」が憲法に違反するか争われた事件です。最高裁は、この規制を合憲と判断しました。

公衆浴場距離制限事件とは

事件の概要

公衆浴場の営業許可を申請した者が、適正配置に関する規定に反するとして不許可処分を受けました。それにもかかわらず営業を行ったため、公衆浴場法違反として起訴され、営業許可における距離制限が憲法22条1項に違反するかが問題となりました。

この事件について、最高裁は平成元年1月20日に判決を言い渡しました。

適正配置規制・距離制限とは

適正配置規制とは、公衆浴場を無制限に開設できるようにせず、既存の公衆浴場との位置関係や距離を考慮して営業許可を判断する仕組みです。新たに営業を始めようとする場所が、既存の公衆浴場に近すぎる場合、許可されないことがあります。

なぜ憲法違反が問題になったのか

憲法22条1項の職業選択の自由との関係

憲法22条1項は、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を保障しています。この自由には、職業を選ぶ自由だけでなく、選んだ職業を実際に行う「営業の自由」も含まれます。

したがって、公衆浴場を営業する自由に対して距離制限を設けることは、憲法上許される制約なのかが検討されました。

規制の目的が合憲性判断を左右する

職業の自由に対する規制は、公共の福祉による制約を受けます。規制が国民の生命・健康への危険を防ぐための消極的・警察目的規制なのか、事業者の経営を安定させる積極的・社会経済政策的規制なのかによって、合憲性の判定基準が異なります。

最高裁はなぜ適正配置規制を合憲と判断したのか

公衆浴場の経営安定は公共の福祉に適合する

最高裁は、公衆浴場業者が経営の困難から廃業や転業をすることを防止し、健全で安定した経営を行えるようにすることによって、国民の保健福祉を維持することは、公共の福祉に適合すると判断しました。

そして、適正配置規制及び距離制限は、その手段として十分な必要性と合理性を有すると認めました。

社会経済政策的な規制として判断した

最高裁は、適正配置規制・距離制限を、積極的・社会経済政策的な規制と位置づけました。この場合、立法府の政策判断が広く尊重され、規制が著しく不合理であることが明白な場合に限って違憲となります。これを「明白の原則」といいます。

本件では、適正配置規制及び距離制限が立法府の裁量を逸脱し、著しく不合理であることが明白とはいえないとされました。そのため、規制は憲法22条1項に違反しないと判断されました。

公衆浴場距離制限事件の結論と判例上のポイント

  • 公衆浴場の適正配置規制・距離制限は、憲法22条1項に違反せず合憲です。
  • 公衆浴場業者の経営を安定させ、国民の保健福祉を維持する目的に合理性が認められました。
  • 社会経済政策的な規制は、著しく不合理であることが明白でない限り、違憲とはされにくいといえます。
  • 公衆浴場法に基づく適正配置規制については、消極的・警察目的規制とする見解、積極的・社会経済政策的規制とする見解、さらに両方の性質を持つとする見解が示されています。平成元年1月20日の判決は積極的・社会経済政策的規制とし、その後の平成元年3月7日の判決は両方の性質を持つとしました。

まとめ

公衆浴場距離制限事件では、営業の自由を制限する距離制限であっても、公衆浴場業者の経営を安定させ、国民の保健福祉を維持する目的に必要性と合理性があり、規制が著しく不合理であることが明白でなければ合憲とされることが示されました。