「時効期間が過ぎれば、権利や義務は自動的に確定する」と考える人もいます。しかし、時効は完成しただけで、その利益が確定するわけではありません。時効の利益を受ける人が、時効を援用する必要があります。
ここでは、時効の援用とは何か、時効完成後に必要な手続、援用できる人について解説します。
時効の援用とは
時効の利益を受ける意思を表示すること
時効の援用とは、時効の利益を受ける意思を表示することです。消滅時効では、一定期間にわたり権利が行使されなかったことを理由に、債権などが消滅したことを主張します。取得時効では、一定期間の占有などを理由に、所有権などを取得したと主張します。
時効が完成していても、利益を受ける人が援用しなければ、裁判所は時効の完成を前提として裁判をすることができません(民法145条)。時効の利益を受けるかどうかを、本人の意思に委ねているためです。
時効完成と時効援用の違い
時効期間が経過することと、時効の利益を受ける意思を表示することは別の段階です。時効の完成によって権利の得喪が確定するのではなく、援用があってはじめて確定するというのが、判例・通説の考え方です。
なお、時効の効力は原則として起算日にさかのぼります(民法144条)。一方、除斥期間は、時効の援用がなくても、一定期間権利を行使しないときは当然に権利が消滅する点で、時効とは異なります。
時効完成後に必要な手続
時効の利益を受けるために援用する
時効が完成した場合でも、時効の利益を受ける人が「時効を援用します」と意思表示をしなければ、時効の利益を受けることはできません。
ただし、起算日や時効期間、完成猶予・更新の有無を確認する必要があります。期間が経過していても、裁判上の請求などによって時効の完成が猶予されたり、権利の承認などによって時効が更新されたりしている場合があるためです。
裁判上で援用する場合の期限
時効の援用を裁判上で行使する場合は、原則として事実審の口頭弁論終結時までに行う必要があります。
援用後は時効の利益を受ける
援用によって、消滅時効であれば対象となる権利について時効の利益を受け、取得時効であれば取得時効の効果を主張できます。ただし、援用できるのは、時効によって利益を受ける者などに限られます。
時効を援用できる人(援用権者)
取得時効の場合
取得時効の完成によって利益を受ける人が援用できます。被相続人の占有によって取得時効が完成した場合、共同相続人の1人は、自己の相続分の限度で援用できます。
一方、建物賃借人のように、敷地の取得時効による利益を受けない人は、建物賃貸人による敷地所有権の取得時効を援用できません。
消滅時効の場合
民法145条により、保証人・連帯保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者も援用できます。また、判例上、詐害行為の受益者も援用できます。
ただし、後順位抵当権者は、先順位抵当権者の被担保債権について消滅時効を援用できません。
債権者が債務者に代わって援用できる場合
債権者は、自己の債権を保全するのに必要な限度で、債務者に代位して、他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することができます。
