物権的請求権の相手方は、原則として、権原なく目的物を占有している者、またはそのおそれがある者です。建物によって土地を占拠されている場合、土地所有者は、建物の収去と土地の明渡しを求めることができます。
物権的請求権の相手方は「権原なく物を占有している者」
物権的請求権とは
物権的請求権とは、所有権などの物権が侵害されたときに、その侵害を取り除いたり、物の返還を求めたりする権利です。主な種類には、次の3つがあります。
- 物権的返還請求権:占有を失った物の返還を求める権利
- 物権的妨害排除請求権:現に生じている妨害をなくすよう求める権利
- 物権的妨害予防請求権:妨害のおそれがある場合に、その予防を求める権利
これらを行使するために、相手方の故意や過失が必要になるわけではありません。重要なのは、現在、物権の行使が妨害されているか、または妨害されるおそれがあるかどうかです。
相手方を決める原則
原則として相手方になるのは、次のような者です。
- 権原なく目的物を占有している者
- 物権の行使を現に妨害している者
- 物権の行使を妨害するおそれがある者
そのため、侵害行為を最初にした人ではなく、現在その物を占有している人が請求の相手方になることがあります。
建物収去・土地明渡請求では現在の建物所有者が原則
たとえば、土地所有者の承諾を得ずに建てられた建物が、その後、別の人に譲渡されたとします。この場合、無断で建物を建てた人が土地を侵害する行為を始めたとしても、現在その建物を所有して土地を占拠しているのが譲受人であれば、原則として譲受人が請求の相手方になります。
つまり、建物収去・土地明渡請求では、誰が建物を建築したかではなく、誰が現在その建物を所有して土地を占拠しているかが基本的な判断基準です。建築者や過去の所有者が、当然に被告となるわけではありません。
建物の登記名義が元所有者のままの場合
元所有者の意思で登記を残していたケース
例外として、登記済みの建物を他人に譲渡した後も、元所有者が自分の意思で建物の登記名義を変更せずに残していた場合があります。このとき、元所有者は、譲渡したことだけを理由に、土地所有者に対する建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできません。
この判断は、最高裁平成6年2月8日判決で示されています。登記名義を自ら残していたという事情を踏まえ、元所有者が例外的に請求の相手方となります。
元所有者の意思によらず登記されたケース
一方、未登記の建物を譲渡し、元所有者が確定的に所有権を失った後、元所有者の意思に基づかず、その名義で登記がされた場合は異なります。この場合、登記名義が元所有者になっているという外形だけで、元所有者が建物収去・土地明渡しの義務を負うことにはなりません(最高裁平成6年2月8日判決)。
したがって、登記名義だけで結論を決めるのではなく、元所有者が登記を残すことを自ら選んだのか、すでに所有権を失っていたのか、その後の登記が本人の意思によるものかを区別する必要があります。
まとめ
物権的請求権の相手方は、原則として、権原なく目的物を占有している者です。建物収去・土地明渡請求では、土地上の建物を現在所有している者が基本的な相手方になります。
ただし、建物を譲渡した元所有者が自分の意思で登記名義を残していた場合には、例外的に元所有者が義務を負うことがあります。一方、元所有者の意思によらず登記された場合には、登記名義だけを理由として義務が生じるわけではありません。
