行政事件訴訟で仮処分はできる?仮処分の禁止と代わりの制度を解説

行政庁の処分を一時的に止めたい場合でも、民事訴訟で使われる「仮処分」をそのまま申し立てることはできません。行政事件訴訟法44条が、行政庁の処分など公権力の行使にあたる行為について、民事保全法上の仮処分を禁止しているためです。

その代わりに、取消訴訟では「執行停止」、義務付けの訴えでは「仮の義務付け」、差止めの訴えでは「仮の差止め」を利用します。

行政庁の処分などに対する仮処分は原則としてできない

行政処分などに対する民事保全法上の仮処分は禁止されている

仮処分とは、民事保全法に基づき、裁判所が本案の結論が出るまでの間に暫定的な措置をとる制度です。しかし、行政処分を一時的に止める目的で、民事保全法上の仮処分を申し立てることはできません。

仮処分の代わりに行政事件訴訟上の制度を利用する

  • 取消訴訟:執行停止
  • 義務付けの訴え:仮の義務付け
  • 差止めの訴え:仮の差止め

どの制度を使うかは、行政庁に何を求める訴訟なのかによって異なります。

取消訴訟では「執行停止」を申し立てる

取消訴訟を提起しても、処分は原則として止まらない

行政事件訴訟法25条1項は、処分の取消訴訟を提起しても、処分の効力や執行、手続の続行は妨げられないと定めています。これを「執行不停止の原則」といいます。

したがって、処分を一時的に止めるには、取消訴訟とは別に執行停止を申し立てる必要があります。

執行停止が認められるための要件

執行停止には、次の要件があります。

  • 適法に取消訴訟が提起されていること
  • 重大な損害を避けるため、緊急の必要があること
  • 執行停止により、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと
  • 本案について理由がないとみえるときではないこと

前半2つは、申立人側が疎明する必要があります。後半2つは、行政主体側が疎明する要件です。

「重大な損害」は回復の困難さなどを考慮して判断される

単に不利益を受けるだけでは、執行停止が認められるとは限りません。裁判所は、損害を回復することがどの程度難しいかを考慮し、損害の性質や程度、処分の内容・性質などを勘案して判断します。

執行停止の申立てと決定のポイント

執行停止は申立てが必要

執行停止は、裁判所が職権で決定することはできず、原告からの申立てが必要です。裁判所は、疎明に基づいて判断します。口頭弁論を開かずに決定することもできますが、あらかじめ当事者の意見を聞かなければなりません。

執行停止には3種類ある

種類 内容
処分の効力の停止 処分の効力そのものを止める
処分の執行の停止 処分の内容を実現するための強制行為を止める
手続の続行の停止 処分を前提に進む手続を止める

執行や手続の停止だけで目的を達成できる場合、処分の効力そのものを停止することはできません。

執行停止後でも取り消される場合がある

執行停止の理由がなくなった場合や事情が変わった場合、相手方の申立てにより、裁判所が執行停止の決定を取り消すことがあります。

即時抗告や内閣総理大臣の異議に注意する

執行停止の申立てに対する決定には即時抗告ができます。ただし、即時抗告をしても、その決定の執行を止める効力はありません。

また、内閣総理大臣は、執行停止の決定の前後に、理由を付して異議を述べることができます。異議が述べられた場合、裁判所は執行停止をできず、すでに決定していれば取り消さなければなりません。

取消訴訟以外では「仮の義務付け」や「仮の差止め」を利用する

義務付けの訴えでは「仮の義務付け」

行政庁に一定の処分をさせる義務付けの訴えでは、暫定的な救済制度として「仮の義務付け」があります。民事保全法上の仮処分ではなく、行政事件訴訟法上の制度です。

差止めの訴えでは「仮の差止め」

行政庁がこれから行う処分を止める差止めの訴えでは、「仮の差止め」を利用します。行政処分を止めたいのか、処分をさせたいのかなど、求める内容に応じて制度を選ぶことが重要です。

裁決の取消しの訴えにも執行停止の規定が準用される

処分の取消しの訴えにおける執行停止に関する規定は、裁決の取消しの訴えにおける執行停止についても準用されます。