相続した不動産について、相続人の一人が相続放棄をした場合と、遺産分割で特定の相続人が取得した場合では、登記の扱いが異なります。
相続放棄により他の相続人が取得した不動産の権利は、登記がなくても第三者に対抗できます。一方、遺産分割によって他の相続人の持分を取得した場合は、登記がなければ第三者に対抗できません。
相続放棄と遺産分割で登記の扱いが異なる結論
相続放棄は登記がなくても第三者に対抗できる
民法939条では、相続放棄をした人は、その相続について初めから相続人とならなかったものとみなすと定められています。
そのため、相続放棄によって他の相続人が単独で取得することになった不動産の権利は、登記がなくても第三者に対抗できます。放棄した相続人が自分の名義で相続登記をしたり、その後に不動産を第三者へ譲渡したりした場合でも、相続放棄の効果を受ける相続人は、登記なしで不動産全体の権利を対抗できます。
遺産分割は登記がなければ第三者に対抗できない
遺産分割前は、複数の相続人が法定相続分に応じて不動産を共同相続しています。遺産分割によって一人の相続人が単独で取得すると、その人は自分の相続分を超える部分について、他の相続人の持分を取得することになります。
この部分は、第三者との関係では、他の相続人の持分が二重に譲渡された場合と同じように扱われます。したがって、遺産分割で不動産を単独取得した相続人は、第三者に所有権全部を対抗するため、原則として登記が必要です(民法899条の2第1項)。
第三者に権利を主張するための「登記」とは
不動産の権利変動は登記が対抗要件になる
不動産の所有権などに変動があっても、その事実を第三者に主張するには、原則として登記が必要です(民法177条)。このように、第三者へ権利変動を主張するための要件を「対抗要件」といいます。
登記は、相続による所有権取得そのものを発生させる要件ではありません。相続による不動産の所有権は、原則として被相続人が死亡した時点で相続人に移転します。ただし、その後に第三者との権利関係が生じた場合には、登記の有無が問題になります。
ここでいう「第三者」の範囲
民法177条の「第三者」は、単に当事者以外の人を指すのではありません。登記がないことを主張する正当な利益を持つ人をいいます。
不動産の売主などの当事者や、売主の相続人などの包括承継人は、民法177条の第三者には当たりません。一方、同じ不動産を譲り受けた人など、登記がないことを主張する正当な利益を持つ人は第三者に当たります。なお、第三者が善意か悪意かは原則として問題とならず、悪意の第三者であっても、登記がなければ対抗できません。
相続放棄と遺産分割で第三者への対抗関係が異なる理由
相続放棄は「初めから相続人でなかった」ことになる
相続放棄の効果は相続開始時にさかのぼります。放棄した人は法律上、初めから相続人ではなかったものとして扱われるため、他の相続人が取得する権利は、遺産分割によって新たに取得した権利とは異なります。
遺産分割は他の相続人の持分を取得する関係になる
遺産分割による単独取得では、自分の相続分を超える部分について、他の相続人の持分を取得します。このため、その部分を第三者に主張するには登記が必要になります。
事例で比較する
被相続人の死亡後、姉と弟が不動産を共同相続したとします。
- 相続放棄の場合:弟が相続放棄をすると、姉は登記がなくても、弟がその不動産を第三者に譲渡した場合に、その第三者へ不動産全部の権利を対抗できます。
- 遺産分割の場合:姉と弟が話し合い、姉が不動産を単独取得する内容で遺産分割をした場合、姉は弟の持分を取得した部分について、登記がなければ第三者に対抗できません。
このように、相続放棄は「初めから相続人でなかった」と扱われるため登記なしで対抗できますが、遺産分割は他の相続人の持分を取得するため、第三者との関係では登記が必要になります。
